自然と目が追っていることに気付いて、ひとり恥ずかしくなった。周りに気取られないように、平常心を取り戻す。大丈夫、顔は赤くなってない、はず。

(豪炎寺…少しだけ、背高いんだな)
彼の髪型のせいもあるかもしれないが。集会のために移動する生徒でごった返しの廊下でも、その凛々しい姿はどうしても目に入ってしまい、一度追うのをやめたはずの視線は、また豪炎寺を捉えていた。そしてまたはっとなり、その繰り返しだった。
(クラス違うだけだろ……何やってんだ俺)
いい加減に嫌悪感もやってきたので、これで最後、と右斜め後方からの豪炎寺を再び見つめる。
その時だった。
何の前触れもなく、豪炎寺が振り返ったのだ。その瞳は、ピンポイントで風丸を射抜く。この位置にいることを的確に把握していたようだった。

心臓が止まるかと思った。びくりと震えてしまった肩に軽い羞恥を感じながらも、視線は逸らさないでいると、豪炎寺が口を開いた。何か言おうとしている。音ではない言葉を、風丸は必死で読み取ってみると、

(ひ る や す み、……?)

そしてにやりと、妖艶な笑みを向けたのだった。情事中にしか見せないようなその表情に、顔が真っ赤に染まるのが自分でも分かった。豪炎寺はそんな反応の風丸を見てくすりと笑い、そちらのクラスの波に消えていった。



「どした風丸。遅れるぞ」
「、あ、はい…」

最後尾のはずの担任に頭を軽く小突かれて、意識が現実に戻ってくる。音が聞こえてきそうなくらい、心臓がばくばくと鳴っていた。

(昼休み…もつのかな、俺…)
たった一目見ただけで、自分はこの有様だというのに。楽しみでもあり恐ろしくもある昼休みに思いを馳せながら、慌てて前の集団を追いかけるのだった。





一目だけの逢瀬 /091225
(title:たかい)

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