「ずるいよな、豪炎寺は」

少しだけあがった息を整えながら、風丸は呟いた。ちらと目線だけ持ち上げて豪炎寺の表情を伺うと、何が、と言おうとしていることは見てとれた。

「…何でオレなんかがいいんだ?」
微かに上気した風丸の頬は少しむくれていて、その表情に夕陽が艶やかな影を落としている。どちらも脈絡の無い発言であったが、後の問いは豪炎寺としては愚問であった。
「そういうところが、だな」
路地裏で人目が無いのをいいことに、風丸の細い体を抱き締めた。ぎゅうと力を込めて、腰に手を回すと、ごうえんじ、と風丸の掠れた声が耳元で聞こえた。
「…キスだけって、言った」
「ああ。いいだろ、これくらい」

折れてしまいそうだ。更に腕へ力を込めながら、豪炎寺は思う。「オレは、醜いよ」風丸の独り言のような言葉を、無言で聞いていた。「豪炎寺は強いし、かっこいいし」少し身動ぎした風丸の、跳ねる髪の毛先を指でつまんでみる。「優しいし。なのにオレはなんにも無くて、」枝毛などは見当たらなかった。手入れが行き届いていることに感心する。
「オレばっか、好きみたい、って…」

不意に、そんな言葉を紡ぐ風丸の表情が見たくなった。
体を離す。今にも泣きそうに眉を寄せて、瞳は微かに膜が張り、潤いを纏っていた。唇が半端に開いていたので、再び塞いでやった。一瞬だけ触れて離すと、風丸は相変わらず泣きそうだった。

「でもオレは、風丸が好きだ」
掴んだままの肩が、びくりと震える。そういうところも、好きだ。念を押すように言ってやる。
惚れ込んでいる、とはこういうことだろうと自分で分かっていた。純粋すぎるのも、それゆえにああいった感情を抱くのも。そういう風丸の弱ささえ好きだった。豪炎寺は言葉ばかりが重要だとは思っていなかったし、風丸には通じる想いだろうと分かっていたので、多くは語らなかったが。

「お前だけじゃない」
だから、大丈夫だ。

もう一度、風丸の体全体を抱き締める。やはり折れてしまいそうだった。今度は風丸の両腕も豪炎寺の背中に回されて、うん、と返事するのがぎりぎりで聞き取れた。豪炎寺の肩に押しつけた風丸の額は、制服ごしでも熱かった。





キレイと弱いのかたまり /091220
(title:たかい)

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