ざざあ、と打ち寄せる波の音がする。穏やかな夕暮れ、辺りは潮の匂いで満ちている。水平線を臨むちいさな丘でふたり、何を話すでもなく、ただ並んで座っていた。きらきらと反射する水面に目を細めると、隣から「きれいだろ」と心地よいハスキーが聞こえた。

「びっくりしました」
「きれいすぎてか?」
「はい。同じ日本なのにって」

そうかあ、と朗らかな笑顔で綱海は立向居の頭を撫でる。九州で生まれ育った立向居は、サッカーを通じた旅で初めて、ここ沖縄へ訪れた。そして出会ったのだ、この海に。


(綱海さんは、海みたいだ)

包み込む広さも、浄化する清らかさも、奪っていく深さも。
くしゃくしゃと髪を撫でる大きな手を感じながら思った。じんわりと温もりを持った掌は、この地に降り注ぐ陽射しのようだ。
その手が離れていくのが名残惜しくて、立向居は綱海の方へ顔を向けた。夕陽を受けて橙色に染まる横顔が、あまりに格好良くて美しくて、息が止まりそうだとさえ思えた。

(……綱海、さん、)

綱海に近い側へ置いていた手をずらし、上体ごとそちらへ向ける。動作に気付いた綱海が、その横顔をこちらに向けてしまう前に。

そのまま頬へ唇を寄せてしまえば、きっともう、この愛しい海のことしか考えられなくなっている。





始まりはここから /091217
(title:Aコース

リバもおいしい二人

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