私はきっと、恐れている。彼を失ってしまうことを。

戦士は何のために生きるのか。戦うためだ。そして戦士が剣を振るうのは、正義のためである。戦いを終わらせるために、戦っている。矛盾している、とは自分が一番分かっている。だがそうしてずっと、生きてきた。光が導くほうに。己の正義が照らす道のほうに。そしてそれは、敵がいてこそ正義とされる道でもあった。倒さねばならぬ悪が在るから、戦士は正義とされるのだ。それらを全て退けた時、私は、どうなるのだろう。戦士としてしか生きてこなかった私が、戦士ではなくなった時、私は、誰になるのだろう。未来のことを考えて、初めて恐怖を抱いた。戦士ではない私など。私ではない。
倒すべき悪が、私の存在意義。戦士として間違っている、だがそうでなければ私は戦士ではなくなる。私は私が思っている以上に、保身的であったのかもしれない。そんな自分に反吐が出る。こころが、痛い。
「ガーランド、わたしは、」
どうすれば、よいのだ。
その敵に救いを求めるなど、滑稽にも程がある。そんな馬鹿げた私を優しく抱き寄せるこの男は、もっと馬鹿げている。包む腕の強さに、自分の胸がちくりと痛んだ。私はこの痛みを知っている。戦士の私を苛むあの痛みだ。だがもっと別の痛みが、その時は存在した。何かに似ている、けれど私には判断がつかない。当たり前といえば当たり前である、この男に対して抱く感情に気付いていない私には、今まで無縁の痛みであったのだから。その正体を理解するとき、それが、戦士の私と悪の彼が理解し合えるときだ。

私はきっと恐れている。彼を失ってしまうことを。彼を失いたくないと、彼と共に在りたいと思うようになってしまった、己の心を。




なぞる痛みは何に似ているか /100223
(title:彗星03号

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