潤也くんが怖い、なんて思ったことは今まで一度もなかった。優しくて面白くて頼もしくて。わたしが彼女でいられるのがすごく嬉しかった。
なのに今は、潤也くんが、怖い。
ホラー映画を見た時のような、そういう怖さじゃない。苛々と怒られているわけでもない。もっと、根底的な何か。どう言えばいいか分からないけれど、潤也くんが潤也くんでなくなりそうな、どこか遠くへ行ってしまいそうな。そんな感じに近いと思う。
精神的にぼろぼろになってしまいそうだった。痛々しくて見ていられなくて、かけるべき言葉も分からない。

あにき、と潤也くんの声が聞こえたから、顔を上げた。黒い服に浮かび上がる茶髪はいつもと変わらない鮮やかさだったけれど、やっぱり纏っている雰囲気が、怖くて。俯いていて表情も見えなかった。
ただ、誰にも渡さない、とでも言うように大事そうに抱えていたのは、お兄さんの焼かれたばかりの遺骨。

わたしの存在には気付かないみたいだった。ゆっくりと前を通り過ぎる潤也くんを、わたしはただ、見つめる事しかできないでいる。





悲しみの底に触れた日に /091226
(title:レプリカ)

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