「………やべえ」 「に、似合う…」 フリオニールさながらに唾をのむ男三人の前にいるのは、同じく男のクラウドだった。先程と異なっているのは、肌になじむ柔らかい桃色の紅が、唇に乗っているということ。 ジタンが拾ってきた、黒く四角いケースの口紅。悪戯のつもりで半ば強制的に塗ってみたそれが、予想を遥かに上回り、似合ってしまったのだから困ったもので、誰も口を開けずにいた。すると、ふるふると微かに震えながら黙っていたクラウドが、小さく声を発した。 「………ジタン」 「!な、なな何だ」 無意識に見惚れていたために、急に声をかけられて声が上擦った。紅を塗ったのはジタン本人であったため、距離が近いせいもあった。身を乗り出して、四つん這いでジタンの眼前に迫ってくるクラウドを、バッツもティーダも、見守ることしかできなかった。少し様子がおかしくもあり、クラウドが何をするつもりなのか、予想ができない。 途端にクラウドが、ジタンの両頬に手を添える。更に顔を近付けて、そのまま――― 「――――ッ!!?」 その場にいた全員が絶句した。 クラウドが、ジタンに、キスをした。突然。 軽く数秒。だがその場にいた全員には、数十分も、二人が唇を重ねているように感じた。 とうとう酸素が足りなくなったジタンが、クラウドの両肩を掴んで引き剥がした。ぜえぜえと息をきらしているジタンに、バッツとティーダが駆け寄る。 「だ、大丈夫かジタン!」 「はっ、は、苦し……今、何が…」 「いきなりどうしたんだ、クラウ…ド…」 クラウドの方へ向き直ったバッツの語尾が、萎んでいく。異変を感じたティーダとジタンもそちらを見る。と。 にこにこと、色気を撒き散らすような、妖艶な笑みがそこにあった。 「ジタン」 「な、何……まさか」 妙に艶っぽい光を浮かべた唇が弧を描いている。ジタンの首に腕を絡める。まさかとはその場にいた全員が思うものの、このクラウドらしからぬあまりに積極的な態度に、成す術が無かった。 そして、そのまさかは的中する。 今度は、ちゅう、と音を立てて。 「クラウドが…キス魔に……!」 原因は明らかに、先程塗った口紅にあった。誰彼構わずキスをせまるクラウドの唇に触れることすらままならず、落とすだけで相当の体力を削られたのは、言うまでもない。 ピンクルージュの魔法 /090911 (title:レプリカ) カオスの誰かさんが開発してたアイテム…とかで… |