豪炎寺が熱を出した。自己管理がきちんとできるあの豪炎寺が風邪なんて、大方夕香ちゃんの世話をしていて自分のことを疎かにしたんだろう。風丸はそんなことを思いながら豪炎寺家のインターホンを押した。そのまま待たず、ドアに手をかける。風丸が訪れることを事前に言ってあったためだ。そこからはドアに鍵をしめて、真っ先に豪炎寺の部屋へと向かう。
「来たぞ、豪炎寺」
「……風丸、か」
布団から起き出そうとする豪炎寺を慌てて制止する。何のために俺が来たんだ、と言えば、渋々といった感じで再び横になった。ベッドサイドに置かれている水の張られた洗面器と、豪炎寺の額に乗っていたタオルは夕香ちゃんが用意してくれたのだろう。本人は看病をしたがっていたらしいが、今日は子供会の行事があったらしく、豪炎寺がどうにか送り出した様子が簡単に想像できて微笑ましくなる。
「水変えてくるから。そしたら台所借りるな」
「すまないな」
豪炎寺のもとへは昼食を用意に来たのだった。部屋に入ってすぐの足元には持参した食材が入っているビニール袋が置いてある。簡単なものしか作れないけれど、それでも何か豪炎寺の力になりたかったのだ。うつしてしまうからと家政婦の人にも休んでもらったという話を聞いて、じゃあ誰がお前の世話をするんだ、と風丸との約束は半ば無理矢理とりつけた。豪炎寺は優しすぎるのだ。そこが魅力でもあるのだけれど。

洗面器を持つ前に、豪炎寺が胸のあたりまでしか布団をかけていないのが気になって、その布団に手をかけた。「暑いだろうけどちゃんとしないと」
肩あたりまで引き上げて、風丸から遠いほうの角のめくれを直そうと身を乗り出す。豪炎寺の熱くなった息が首筋に触れて、少しどきりとした。
その瞬間。
「──っ、ちょっ…!?」
肩を豪炎寺に抱き留められ、その唇が風丸の首筋に触れる。ひどく微かな力で吸われて、たったそれだけのことなのに身体が震えた。
「ご、豪炎寺……何ふざけて──」
狙ってなのか偶然なのか、身体を起こそうとしたタイミングで、唇が首筋を辿っていく。顔の輪郭に触れて、そのまま耳に触れて。耳朶を甘噛みされて、思わず息を詰めてしまうのが恥ずかしい。「風丸の、」耳のすぐ側で声を出されて、背中に走った痺れがたまらなかった。つくづく風丸は豪炎寺のあらゆるものに弱いと思う。「風丸の匂いが、するな」
えっ、と風丸が思った時には、肩に触れていた手から力が抜けて、ぱたりと布団へ落ちた。
「何だか、落ち着くよ」

豪炎寺の顔を見ると(当然だがかなりの至近距離でそれだけでどきりとしてしまった)、微かに眉間に皺を寄せて目を閉じて、荒く息をついている。額に触れると驚くほど熱かった。
「〜〜っ、そんな熱あるんだから大人しく寝てろ!全く!」
照れ隠しに反発してみたけれど、うなされている彼が心配なのは変わらない事実であり。洗面器を持って慌てて部屋を出た。風丸の頬はひどく火照っていて、まるでこの短時間で熱をうつされてしまったようだった。

23.キミの匂い
:110327


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