次はあっちね、とスカートを翻しながらぱたぱたと動き回る春奈はとても嬉しそうだった。鬼道は自分の右肩と左肘にいくつもかけられたバッグを見て、春先で良かったとしみじみ思う。これが冬の買い物だったら、コートやらブーツやら、嵩張ってさすがに大変だっただろう。主に荷物持ちである自分が。「おにいちゃーん、何してるのー、こっちこっち」春奈は少し先の店舗の前でこちらに手を振っていて、やれやれ、とひとつ息を吐く。きっと今の俺は眉が下がり口元が緩み、だらしない表情をしているのだろうな、と苦笑した。

「こんな感じかなあ」
フードコートで買ったクレープを食べながら春奈が呟いた。隣では鬼道がコーヒーを啜っている。ベンチには一組の兄妹とたくさんのショップバッグが腰掛けていた。「必要なものは買えたのか」
「うん。ていうより、買い物以外にしたかったことできたから、いいかなって」
鬼道は思わず春奈のほうを見遣る。春奈に「服の買い物に付き合ってほしい」と言われ、買い物に出てから、二人は始終行動を共にしていた。春奈が買い物以外の何かをしていた記憶はない。視線に気付いた春奈が、鬼道に「えへへ、実はね」と笑いかける。
「お兄ちゃんと出かけたかっただけなんだ、私。どうでもいい話しながら、ただぶらぶらしたかったの」
「………そうか」
付き合わせちゃってごめんね、と春奈が言うものだから、「いや。楽しかったからいいさ」と鬼道は微笑んだ。謝られるようなことは一切なかった。離れている期間が長かった二人にとって、水入らずで過ごせる時間はとても大切なものだったから。そうしたいとは思っていても、いつだって冷静で、感情で行動するようなことはない鬼道だからこそ、春奈からこのような誘いを受けた時は純粋に嬉しかったのだ。
「ありがとう、お兄ちゃん」
また行こうね、と春奈は鬼道の肩に頭を凭れさせる。妹の頼みを断れる兄がどこにいようか。鬼道は心の奥底でそういったことを思っていたが、口からはただ「ああ」と相槌を打っておいた。

22.お姫様扱い
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