星を模した頭部が、月の光を反射してきらきらと輝いている。騎士のようなその外見と、武士のような立ち振る舞いには、些か可愛らしすぎる雰囲気を醸し出していた。 とは言っても、今は夜だ。風もなく、満月だけがこちらを見ている、穏やかな夜だった。 目が冴えてしまったのもあり、その者は自身の武器の手入れに勤しんでいた。手元を見るにも、輝きを確認するにも、月明りは十分すぎるほどだった。 一瞬だけ、空気が揺れた。風が吹き始めたかと思ったが、背後からかけられた声に、その正体を理解した。 「……アース?」 「―――エリー…起こしてしまいましたか」 キィ、とドアが軋んだ音をたてる。アースがいるベランダへと、エリーが部屋から出てきたのだった。いつでも主の姿を確認できるようにとこの場所を選んだのだが、かえって気配を意識させてしまったのかもしれない。エリーはそういうことに敏感な体質だった。 「お体に障ります。部屋に戻りましょう」 アースは傍らにあった武器と、それを磨いていた用具を手際よく懐へと仕舞うと、寝ぼけ眼を擦っているエリーの両肩を支えた。ふらつく体を方向転換させ、再び彼女の自室へ戻ってもらおうと―――したのだが。 「ちが、う」 「…エリー?」 舌足らずだが、はっきりと聞き取れる声音で、拒否の言葉を投げかけてきた。違う、とは、何を指しているのだろうか。 方向転換をしたことも意味を成さず、こちらに向き直って足下に額を押しつけてくる。小さな拳に握られ、マントには皺が寄っていた。 「おまえが……、………」 語尾が消え入りそうで聞き取れず、耳を寄せる。膝を付き、エリーの前に座り込む体勢になった。 すると。 「おまえが、いい……んだ……」 「……!? え、エリー!?」 流石にぎょっとした。 言いながら、エリーの小さな体が、アースの膝へと乗り上げてきたのだ。 普段あのような威厳を放っている少女とは思えない、おぼつかない足取りで。 その動作に不安になり、引き剥がすよりもまず安定させようと、尻を着いた。エリーの動きに合わせて足も動かすと、自然と胡座をかく形になった。 そしてエリーが両腿の間へ辿り着くと、そのまま、丸まるように横になった。 勝手にアースのマントを手繰り寄せて、布団のようにしながら。 気持ち良さげな表情で、控え目な寝息をたてている主の様子を眺めて、やっとアースの肩から力が抜けた。 慣れない行動に、心拍数の上がりすぎた心臓がはち切れそうだった。 もしかしたら。 悪夢でも見て、人肌が恋しかったのかもしれない。あるいは、普段ならば枕元にいるはずのアースがいないことに気付き、見つけた安堵からすぐ眠りに落ちただけかもしれない。 あるいは、 アースが側にいない、という、寂しさからの行動かもしれない。 (……そう思うのは、某の自惚れだろうか) きっと記憶に残らない行動だろうし、確かめる術もない。 額に散った前髪を分けながら、月明りに煌めいている髪を撫でた。 とりあえずはこのまま。この金属質の体の上で良いのなら、寝床として提供することにしよう。幸い今夜は風もなく、マントにくるまっていれば風邪をひく心配もない。 彼女の目が覚めた時、この状況にどんな反応をするのだろう。そんなことに思いを巡らせながら、アースも瞼を閉じた。 マゼンタは誘う /090831 (title:たかい) エリーはアースが枕になってくれてる夢を見ていました |