「影野さあ。前髪切らねーの?」
ただ思ったことをただ口にしたのだろう。影野の両目を完全に覆ってしまう彼自身の髪型に対する、助言だとか嫌味だとかそういったものは含まれていない、単なる半田の意見だった。ああそれ俺も思ってた、と同意したのは染岡である。「サッカーするようになったんだしよ。もともと何かと不便なんじゃねえのか?」
ええと、と唸るような声しか発さない影野本人に、「だってよ、どうなの?」と松野が雑誌に目を落としながら声をかける。
「いや…俺は…べつに不便じゃないし……」
「あとあれだよ。なんつーか、感情が伝わりにくいつーか」
「ああ、アイコンタクトってやつか?そうだよなあ、そういうのも大切だよなあ」
ここぞとばかりに不満(というと影野に失礼かもしれないが)を漏らす半田と染岡に、松野は至極小声で「勝手だなあ」と呟く。それを聞き取ってか雑誌を畳む動作が目に入ってか、興味のなさそうな松野に対し「お前はそう思わないのか?」と染岡が問うた。
すると松野は、
「だって僕、影野とちゃんと目合ってるし」
何かおかしい?とでも言いたげな表情で告げた。
「まあ目なんて合ってようと合ってなかろうと、影野の感情くらいフツーにわかるけど」
ねー、と首を傾げて影野に顔を向けた松野に、影野自身が驚いている───ように見えた。いつもと何ら変わりない影野なのだが、無言のまま口元は微かに笑みを浮かべていて、やはり真の感情は掴みきれなかった。それを見た松野が楽しそうにしているので、どうやらこの二人の間には本当に、意思疎通の特殊なツールが存在するのかもしれなかった。

19.いつも目が合う
:110321


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