(健やかなるときも病めるときも愛しつづけることを誓いますか、なんて、そんなことはどうでもいいの。言葉なんて信じられないから。ただひとつ、繋いだこの手を離さないでいてほしい。それだけでいい。わたしにとって、あなたの存在だけが、信じられるたったひとつのことなの。)

「もうすぐよ。もうすぐで、わたしたち、ずうっと一緒にいられる」
「ああ、その通りだ。向こうに行ったら、僕たち一番の幸せ者になれるんだ。誰もが、祝福してくれるはずだ」
「ふふ、楽しみ」
旅立ちのための場所までもう少し。吹雪のように吹きつける強い風と雪を受けて、彼女が微かに震えるのを感じて、彼は繋いだ手に力を込めた。寒さで感覚が遠くなりそうなのを、どうにか引き寄せる。手だけを頼りに互いの存在を確かめながら、どうにか、目的地へと辿り着いた。立ち止まり、歩んできた道程に思いを馳せる。彼も彼女も、感じていることは同じだった。
向かい合い、両手を繋ぎ合わせる。ごく自然な動作で、彼と彼女はキスをした。唇は互いに冷えきっていて、かさかさだった。ふふふ、と自然に笑みがこぼれる。やっとここまで来られた。やっと、幸せになれる時が来た。
「わたしの手を離さないでね。約束よ」
「もちろんだ。きみも、しっかり僕の手を握っていてくれよ」
もう一度だけ、唇を触れ合わせる。握った手にぎゅうと力を込め、そして、片方を離した。繋いだほうの手が二人の間になるように横に並び、永遠を誓うかわりに、強く強く相手の手を握る。
二人はほぼ同時に、暗く淀む空を仰いだ。





数ヶ月たったある日、とある雪山で男女の遺体が発見された。巨大な財閥が令嬢の捜索依頼を出しており、その遺体の女が本人であったのだが、共にいた男は浮浪者であり、はっきりとした身元が特定できなかった。
見つめあうようにして死んでいた男女は手を繋いでいた。強く握り合わされたその手をほどくのは、ひどく困難であったという。

17.永遠を誓う
:110318


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