※小学校中〜高学年くらい



周りの景色が、どんどん後ろに流れていく。耳のそばで、うるさいような、静かなような、自分を覆う空気を切るような音がする。足が勝手に地面を蹴っていく。心臓が動いている感覚がする。体温が上がる。風を感じる。
いや、今、自分は、
「風丸!」
名前を呼ばれてはっとした。足を止めてみる。手足の先がじんじんと痺れているような感じがして、胸も酸素が足りていなくて、痛い。はっ、はっ、と荒い呼吸を繰り返している。肩が上下している。こめかみや首筋から汗が伝う。
「かーぜーまーるー!」
近づいてくる友人の声を感じて、そこで振り返った。
「……えん、どう」
「ぶはあ、やっと、追いついたあ!」
左右の膝あたりに両手をついて、首を項垂れさせて、円堂もまたぜえぜえと呼吸を整えていた。ふー、とひとつ長く大きく息を吐き出したあと、円堂の大きな瞳がぱっとこちらに向けられる。
「風丸、おまえ足速いな!すっげーよ!」
あまりに瞳を輝かせて、満面の笑みでそんなことを言うものだから、褒められたはずの風丸がなんだか面食らってしまった。だがすぐに嬉しさがこみあげて、風丸も顔が綻ぶ。「え、そ、そうかな」
「そうだって!これならゼッタイ陸上選手にもなれるぞ!」
肩に手を置き、ばしばしと叩かれる。痛いって、なんて笑いながら、そうか、おれ足速いんだ、とささやかな喜びの芽生えを噛み締めていた。
あのとき、おれは風になっていた。そうとさえ思えることのなんと心地好いことか。風丸が走ることに夢中になるのに、そう時間はかからなかった。

13.走る走る!
:110227


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