人間を総合的に見て5段階評価するならば、わたしは2の人間だろう。

人より秀でるものが1つも無い、良くて人並み。だいたいのことは満足に出来ない。
1つの事にのめり込むことが出来ない。特技なんて無い、趣味なんて無い。強いて上げるなら寝るのが好きだ。
頭の回転も悪い。テストの類も、どの教科もクラス平均より5点下がわたしのポジション。
面白い話術も無い。寧ろ話すことが苦手。言葉はつっかえがち。おまけに声が低くて、テンションが上がってもそう見えないらしい。
家事も出来ない。特に料理なんて訳が分からない。卵焼きを作ろうとして結局ぐちゃぐちゃになってしまったそれをスクランブルエッグにした回数なら誰にも負けない。
顔のパーツで誇れるものが無い。しかもそれぞれのバランスが悪い。そもそも輪郭から歪んでる。つまり不細工。
そしてイジりにくい程度のデブ。太腿は特に人の目に触れてはいけない類のものだ。にも関わらず胸は無い。
こんな感じで、わたしはわたしのダメなところ・嫌いなところを間違いなく100個は言える。そしてそれらを治そうと努力をしようとしないのが、わたしの無限にある中でも一番ダメなところだ。
要するに、何にも良いところの無い人間なのだ、わたしは。だから2の人間だ。ちなみにわたしが言う人間5段階評価で1の人間は、性犯罪者とかのろくでもない害悪人間のことである。わたしだって流石に人に故意に迷惑をかけたりはしないからね。

そんなわたしが、人間5段階評価が恐らく5であろう人間に、片思いをしている。かれこれ一年近くも。

きっかけは実に単純だ。この中学に入学してすぐ、移動教室で急いで走っていたら、持っていたプリントを落としてしまった。そのとき偶然その人はわたしの後ろに居て、プリントを拾ってくれたのだ。ハイ、と言って渡してくれたときのあの洗練された美しい笑顔に、わたしは呆気なく一目惚れしてしまったのであった。
その人のことは、一目惚れした次の日に知ることになる。新入生向けに行われた部活動紹介で、あの人はなんとテニス部の部長として体育館のステージに上がっていた。ステージ上で簡単なラリーをしている先輩が、ただただ格好よくて仕方なかった。
あの眩しいくらい素敵な先輩は、しらいしくらのすけ、と言うらしい。どんな漢字なのかも分からないけれど、胸の奥でツンと澄ました音で響くその名前までもわたしを魅了したのだ。

そしてあれ以降一度も会話出来ずに、中学二度目の春を迎える。
勿論先輩の情報ならこの一年でたくさん手に入った。なんせ彼は校内で1、2を争うモテ男である。放っておいても先輩の情報は自ずと流れてくるのだ。
放課後にチラッとテニスコートを覗いたり、廊下などですれ違ったときはバレない程度に見つめてみたり、全校集会などで集まったときに必死で探してみたりはするけれど、わたしがそれ以上能動的なアピールをすることは無かった。恋と言うのも烏滸がましい。でも、何したって無駄だもの。あ、この無駄は白石先輩を意識したものじゃないよ!

△▽

そんなわたしも2年生になった。去年も同じクラスだった子くらいしか見知った顔が無い。…と思ったら、一人居た。ちょっとした有名人。
早速男女数名に囲まれている彼は、強豪テニス部唯一の2年生レギュラー、財前光。たまに見るテニス部の練習でチラッと視界に入った程度だったから、初めて近くで顔を見たけど、成る程なかなかのイケメンである。でも白石先輩には負ける。
彼のことはよく知らないけれど、この人もきっと人間5段階評価で5の人なんだろうな。

この始業式の2日後から、わたしの可もなく不可もない中学ライフが木っ端微塵に壊されてしまうなんて、そのときのわたしは知り得ないことだった。


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