「眠い」
「うん」

久しぶりのデートのテンションとは思えない、けどどうしようもなく眠い。今日着ていく服を選ぶのに手間取って寝るのが遅かったのも相まって、わたしの瞼は落ちる寸前である。隣に座る光もわたしと同じく瞼は重そうだ。

テニス部の休みとわたしの部活の休みが合致したので、久々にデートだ!と意気込んで、どうせなら大人っぽいことしよう!と二人で俄に盛り上がった結果、市立の科学館まで足を運んでプラネタリウムと洒落込んだ訳だが、薄暗い室内に流れるようなアナウンス、空調もバッチリで柔らかい椅子…。お分かりいただけただろうか。開始20分までがわたしたちの限界だった。そして冒頭に至るのです。

目を凝らして腕時計を見ると、終了予定時刻まであと5分。そう思うとなんだか勿体なくて自然と目は覚めた。光に言わせればわたしは"貧乏思考"だそうだ。

「光、あと5分やて」

小声で伝えると光はすこし覚醒したようで、姿勢を軽く正した。

『何故人は空を見上げるのでしょうか』

アナウンスは尚も優しく染み込ませるように語りかける。もう少しちゃんと聞いてればよかったなあ。

『太古から、星は綺麗なものとされていますね。それは本能だったのではないでしょうか。私たちが食事をしたり、睡眠をとったりするのと同じで、空を見上げるのはきっと、理屈抜きの行為なんじゃないかって、私は思います。皆様、今夜は大事な人と空を見上げてみませんか?』

そんな話で上映は締めくくられた。光もちゃんと聞いていたみたいだ。続々と足音は大きくなり、わたしたちも慌てて立ち上がって、偽物のミニスケールの星空を後にした。

「どうやった?」
「どうやったもなにも、俺ら半分寝とったからな」
「せやけど」

外に出ると、さっきの澄んだ空とは一転して、本物の空は厚い雲で灰色に覆われていた。午前中は暖かくて、着てきたカーディガンも脱ぎたい勢いだったけれど、今やこんな薄手のカーディガンじゃ肌寒い。

「寒っ」
「俺かて寒いわ。カーディガン寄越せ」
「光には入らんわ!ちゅーか光のパーカーのが絶対暖かいやろ!」

不毛な言い合いを尻目に風がビュウと大きく吹き抜ける。光はジーンズのポケットに手を突っ込んで寒そうにしているので、わたしはガラ空きの光のパーカーのポケットに手を潜り込ませた。生地自体が冷えているので全然温まらない。

「暖かい?」
「ぜーんぜん」
「やろうな」

大人っぽいデート企画は不完全燃焼に終わってしまうらしい。でもまだ夜を一緒に過ごせないわたしたちが、同じ夜空を見つめることが出来たんだよなあ。なんだ、ちゃんとロマンチックなことできてた。

「田舎の小高い丘にでも行ったら見えるんやろか」
「星?」
「本物の星空、見たない?」
「光となら、見たい、かな」

瞳を閉じて、瞼の裏でプラネタリウムを作る。チカチカと光を放つそれは、わたしだけが知っている星座。重なった光の唇から、この星が伝っていけばいいのに。そうすれば、今日眠るときにこの星座を共有出来る。


1 光を放つ。また、光を反射して輝く。


20130323


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