小説log | ナノ



今日、なまえがフられたらしい。
という噂が回っていた朝のHRが始まる前、なまえは教室に居なかった。あいつはそこそこ真面目だから、授業をサボったことは無かったように記憶しとる。やから俺らの担任も「みょうじから連絡あったやつ居らんかー?」って、サボりなんて想定してないみたいやった。

体調悪いんで、そう言って一限目をサボった。通りすがりに白石から「脱ヘタレやで!」と小さく喝を入れられた。こいつのおかん気質、ええ加減治してほしい。
頭で考えるより先に、気付けば足が進んでいた。上へ、上へ。階段を駆け上がり、開けた屋上へ。

***

「やっぱここか」

予想通りに、なまえはそこに居た。薄汚れたコンクリの地面に座り込み、薄暗く濁った空を見つめていた。

「…なんや、謙也か」

目線を俺に遣って一瞬安堵した表情を見せると、また目線を空へと戻した。初めて見る、苦々しい表情をしていた。声は掠れていた。暫く出していなかったのか、それとも泣き腫らしたのか。様子を見るに、恐らく前者だろうが。

「なんでここって分かったん?」
「煙と何とかは高いとこが好きって言うやろ?」
「なに今日の謙也、うざっ」

目に入るリボンの掛かった箱。その箱の本来の白さは、今の真上の空を映して濁っていた。…渡したかったんやろうな。本当、こいつは阿呆より馬鹿や。そしてこいつを振った奴は、大馬鹿や。

「…ああ、これな」
「……すまん」
「何で謙也が謝んねん」

空から目線を外し、箱に目を移した。愛おしそうに見つめていた。そして、悔しそうに見つめていた。

「どうするん、それ」
「んー…せやな」

捨てようかな、と小さく言い放った。殆どモノクロの視界の中で、ピンクのそのリボンが哀しくぼやけた気がした。
脱ヘタレ、そう言った白石の言葉が頭に反響する。

「なら、俺が貰う」
「は?」

リボンを解き、包装紙を剥がし、裸の箱を睨んだ。

「ちょ、謙也!」
「…俺じゃ、あかんの」

何が、と肝心な所を言葉にできない俺はやはりヘタレなのかもしれない。初めてきちんとこっちを見たなまえの瞳の奥は、いろんな感情が混ざり合った、形容しにくい色をしていた。
こんなこと言って、困らせるのは百も承知や。でも、俺の大好きななまえの心が、"失恋"の病で腐敗してしまう、その前に。救いたいと思うのが、俺の"愛"や。

「謙也は、それでええの!?」
「それが"好き"やろ」









今はまだ報われようとは思わない。だからせめて、好きでいさせてくれ。



2011.02.14