小説log | ナノ



夏真っ盛りの今日はとんでもなく暑い。天気予報のお姉さんが、今日は猛暑日なので熱中症に気をつけて下さい、なんてすごく涼しげな顔で言うもんだから、大したことないんじゃない?とか疑って油断してた。疑ってごめんなさいお姉さん。本当に"猛暑日"という言葉に相応しい日差しですね、ハイ。

まあそんな日だから、普通に登校してるだけで結構汗をかいた。これは生理的なものだから不可抗力だ。けれど私がまずかったのは、シーブリーズやパウダーシートの類の、夏の必需品を持って来なかったことだ。
タオルでいくら拭いても止まることを知らない汗。学校に着いて席に座ったら、更に顔に熱が集まって汗が噴き出す。ああもううんざり!

汗臭くて申し訳ないなあと思って、周りの席を見渡してみた。私の席は、1番窓際の後ろから2番目。我ながら素晴らしい席を手に入れたと思う。チャイムが鳴る一分前だけど、隣の席の男子はまだ来てないみたい。今日は休みなのかな。前の席の真面目くんは英語の教科書を眺めている。あ、そういや今日単語テストだったっけ。忘れてたから何も勉強してないけど、まあいっか。
そして後ろの席の男子、一氏くんは、まだ金色くんの席でお喋りしてる。
金色くんはみんなに優しい。私みたいな目立たない子にも平等に接してくれる。金色くんって呼ぶと、「小春ちゃんって呼んでやー(はあと)」って言われるけど、小春ちゃんなんて呼べない。金色くんだって仮にも男子だしね!
それに対して一氏くんは、金色くん以外には口が悪い。そんなさっぱりした性格からか、男子とは割とみんなと仲良いみたいだけど、積極的な女子が絡みに来るとあからさまに嫌そうな対応をする。それをクールと解釈して一部女子には絶大な人気を誇るらしいが。
授業中は真面目だし、プリントを後ろに回すとちゃんと早く取ってくれるけど、ぶっちゃけるとわたしはまだ一氏くんがちょっと怖い。

チャイムまで残り10秒。あ、一氏くんが席に戻って来た。汗で濡れたんだろうと思われる、少し色濃くなった深緑の髪が、何となく涼し気だった。シャツを第二ボタンまで開けて、あっつー、と呟きながら、その襟元をパタパタさせた。クラスに何人か居る隠れ一氏くんファンの子たちが、遠目でチラチラこっちを見ながらひそひそと話をしてる。まあ、一氏くんしか視界に入ってないんだろうけど。

チャイムが鳴って少し経って、先生が入って来た。それでもあんまり静かにならないのがこのクラスの特徴かもしれない。
朝の号令をかけ終わったところで、後ろから不自然な風が来た。びっくりしてちらりと後ろを向くと、一氏くんが斜めを向いて、今度は下敷きをパタパタさせていた。受験生なら大多数がもっている、あの赤のクリアの下敷きだ。よく見るとその下敷きには金色くんへの愛が黒の油性ペンでびっしり綴られていて、ちょっとビビった。
私の方に風が来てることに気付いてないんだろうなあ。取り敢えず前に向き直そうと思って、体を動かそうとした、その刹那。僅かに、でもばっちり、一氏くんと目が合ってしまった。そのまま急いで何も無かったようにして前を向いたけど、なんか無性に意識してしまって、後ろを振り向くなんて出来なかった。

先生の話なんか頭を摺り抜けていた。するとまた後ろから、でも今度は明らかに私に向けた、大きな不自然な風が来た。
ゆっくり後ろを振り返ると、案の定、少し口角を上げたしたり顔がわたしを見ていた。その形のいい唇から流れる言葉に、慣れない私は目眩がした。

「なあ、構ってや」


らぐら



2010.09.11


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