小説log | ナノ



誰でもいいから、この状況を出来るだけ詳しく説明して欲しい。いや、頭は冷え切っているから理解は出来ている。出来るのだけど、私はそれを全力で拒否したい。何故なら、出来の悪い私の頭でさえ、危険信号を強烈に光らせているんだから。
知らない奴(正解に言えば、認識したくない奴)が、私の机で寝ている。
同じクラスなら、間違って座ったという可能性が無いとも言えないだろう。しかし残念ながら、私はD組でこいつはH組だ(だって変態だからね!) 3クラスも隔たってるのだから、「間違って座った」の線は確実に消えた。

男子のくせに髪は欝陶しい、しかも眼鏡も伊達。関西弁でやたら声が低いから、無駄にエロい。なんかキモいオーラが滲み出ている。そのくせ顔は比較的整っているから、女子はそのオーラをプラス解釈していて、何を血迷ったか、あんな奴にキャーキャーと黄色い声援を送る。とんだ変人…いや、変態なのだ。
そんな奴が、私の席で俯せで寝ている。何故?
とりあえず、この状況をどうにかしたい。岳人に電話しよう…ていうかこいつ部活はどうした。生徒会長兼部長から怒られるぞ。
ケータイを取り出すと、いつの間にかメールを受信していたらしく、赤いランプがぴかぴか光っていた。……なんか、嫌な予感。


From:love-roma.sock@……
Subject:お嬢さんへ
――――――――――――
自分の居らん間に、赤外線で電話帳受信さしてもろたわ。勘忍な?笑
その困った顔、むっちゃかわええわ。


…これはもう、犯罪じゃない?おまわりさんこいつです!アドもキモい。"笑"の使い方もウザい。けどそれよりも、

「狸寝入りとかほんっとありえないんだけど。私の机で何してんのH組の忍足くん」
「何や、俺のクラス覚えてくれとったん?嬉しいわ」
「とんだプラス思考ね。尊敬するわ」
「そんな、照れるわ」

ああもう拉致が空かない。

「もう一回聞く。私の机で何してんの」
「怒った顔すら別嬪やなぁ。見たまんまやで?寝とってん」
「何故?理由を簡潔に述べなさい」
「なまえんこと待っとってん。せやけど来んの遅いから寝てもうたんや」
「…用件は?」
「これ、渡したかってん」

忍足の指に挟まれヒラヒラ揺れている二枚の紙切れには、泣けると話題の映画タイトル。忍足は立ち上がって、その一枚を私に手渡した。

「…これのお誘い?」
「せやで」
「私、ラブロマみたいなの嫌いなんだけど。それに映画館も嫌い」
「俺が保証したる。これはアタリや」
「もう見たの?」
「なまえと行く時の為に、男一人で下見してきてん」
「…キモい。ドリンク奢ってよ」
「当たり前や。パンフも買うで」
「席、間一つ空けるなら見に行ってあげる」
「そらあかん。そんなん意味あらへんわ」
「我が儘…。ランチも奢って」
「何なりと。お嬢さん」

そう言って恭しく頭を下げた忍足に、荷物も持ってもらおう。忍足なんかで緩んだこの頬に、むかついたから。


わざとですが?

「嬉しい誤算やったわぁ…ランチも一緒にってことは、午前から時間くれるんやな。その間に絶対落としたるわ」



2010.XX.XX



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