小説log | ナノ



基本的に、自分は悩みを溜めない性格だとばかり思ってた。けど、こればっかりはどうしようもない。四月に入っていっぱい考えてはみたものの、どれもいまひとつ。
だから一週間ほど前から、何となくこんな風になることは予想出来ていた。そして"最終手段"も考えていた。自分の図太さが軽く恨めしいくらいだ。

「何アホな顔しとるん」
「ざ、財前様!あの、相談が…」
「嫌や」
「酷っ!まだ何も言うてへんのに!」
「自分うざい上にキモいわ」
「うちマゾちゃうのに…」
「…で、話は何やの。下らんことやったらしばく」

この見事なツンデレくんこそが、私が頼りにしている、同じクラスの二年生にしてテニス部レギュラー、四天宝寺の天才こと財前光くんだ。

「わ!ほんまおおきに!実は、白石先輩のことなんやけど…」
「やっぱ部長か。どうせ『誕プレどないしよー』やろ」
「なっ…!財前くんってまさか…エスパー!?」
「アホか」
「痛っ!デコピン痛っ!力加減!!」
「本人に直接聞けばええ話やろ」
「それ出来とったら、苦労せえへんもん…」

なんせ私は、これが初恋だったりする。恋愛経験値0の私には、好きな人へプレゼントを渡すなんて、まだまだレベルが全然足りない。それどころか、先輩と落ち着いて話せる自信すらどこにも見当たらない。
うう、なんかヘコんできた。視線を徐々に下へ向けると、目の前から溜息交じりの「しゃあないな」という言葉が降ってきた。

「ほんまはやりたくなかってんけど、」
「うぉっ!…え、何コレ」

顔を上げた瞬間、乱雑に投げ渡されたのは、見知らぬ野草と思しきもの。
財前くんは密かに耳を寄せ、私にしか聞き取れない小さな声で言った。

「惚れ薬や」
「…は、嘘!本物!?」
「それが現物や」
「…これ、まがいもんとちゃうの?」
「あっそ、ほな返せ。お前みたいな不っ細工、当たって砕け散ってしまえばええ」
「わわっ!ほんの冗談ですよぅ!ごめんなさいありがたく頂戴致します」
「…ほんまに不細工な顔やな」
「すいません!誠に誠にありがとうございます!」
「それ入れて不っ細工なケーキでも作ればええんとちゃう」
「財前様の分も作りますね!」
「…そのすっからかんの脳みそ、引き裂いたろか?ん?」
「ジョークですゥ!!」
「あ、それ自分が食ったら効果薄れる奴やから、味見とかすなよ」
「ええ!?失敗でけへん…!」

惚れ薬を常備していたとは予想外だったが、流石財前くん!やっぱ当てにしてよかった!!とにかくなんとかなりそうだ!

放課後、図書館に行ってケーキ作りの本を借りてきた。料理は正直苦手な分野。しかも味見も出来ないというので、自分でも吃驚するほど集中して、財前くんのアドバイスによってケーキを作った。

***

当日の朝はどんよりだった。だから私の気分もどんよりだったけど、今日は決戦なんだ。
財前くんによると、放課後の部活終了後が渡すにはベストとのことなので、それまで待つ。私が待っている間にも、白石先輩は休憩の度に可愛いらしいラッピングのプレゼントを貰っていた。放課後になってもそれは変わらず。一人きり、部活動を眺めるでもなく、教室でただひっそり待つ。
黄色い声援や、渡邊先生の大きな声。そしてたまにきらきらした声が耳を掠める。優しく耳に溶けていくみたいで心地よい。時折激情的になったりして、聞いてて飽きない声。無意識の内に拾っている自分は、既に重症なのかもしれない。

そして漸く部活は終わり、私は急いで下に降りる。が、私と同じように待っていた女の子(ざっと10人)が白石先輩を囲んだ。
さっきはあんなに軽かったのに、今は足が地面にはりついたように、どんより、動かなくなってしまった。この意気地無し、そう自嘲してももう駄目だった。くるり、回れ右で足を引き摺りながら校門へと向かう。財前くん、やっぱり私は不細工なダメ女です。

「!あ、財前のクラスの子やろ?」

ついさっきまで心地良かった、だけど今1番聞きたくなかった声がする。
ねえ、何で?涙やらなんやらでぐしゃぐしゃで目も当てられないくらいに不っ細工な時に、あなたは私の前に現れるの?

「えっ!どないしたん!?」

あたふたしながら、両腕に溢れんばかりに貰ったプレゼントたちを全部地面に置いて、首にかけていたタオルを差し出す、白石先輩。

「だい、じょぶ…です、っう」
「そら強がりにも程があるわ」
「…もっ、優しく、しないで下さいっ!」

精一杯強がってみたけれど、自分の惨めさを勝手に露呈しただけだった。息が詰まりそうなくらい泣いてる私を、先輩は優しく宥めてくれる。

「質問してええ?」
「っ、…はい」
「コレ、もしかせんでも、俺に?」

…しまった、まだ右手に握りしめたままだった。思いっきりプレゼント用の包装をしたのも失敗だったな。

「貰っても、ええ?」
「…お好きにどうぞ」
「おおきに、開けんで」

しゅるしゅると滑らかにリボンを解いて、白石先輩はその少し形が歪んでしまっているケーキを凝視。そして、ぽつり。

「俺のこと、そない憎んどるんか…」
「……え?」

いや、見た目は確かにお世辞にも良いとは言えないけれど、何でそんな結論に…?
ふと白石先輩が目線を違う方へ遣ったので、私も同じ方を見ると、愉しそうな目をした財前くんがテニスコートからこちらを見ていた。

「……成る程な」
「へ?…あの、」
「これ、財前の入れ知恵やろ?」
「え…なな、何で!?」
「これ何の葉なんか、知っとる?」
「…言えません」
「え!知っとるん!?」
「し、知りません!惚れ薬なんて………あ、」

ベタ!ベタ過ぎる!口が滑ったなんて!
先輩、怒ってるのかな?そりゃそうだよね、だって薬盛ろうとしたんだから。……終わった、私。

「…っく、はは!ほ、惚れ薬!」
「ご、ごめんなさい!本当に」
「ちゃうちゃう!これ、毒草や。ジギタリスっちゅーんやけど」
「……毒、草?」

「自分、めっちゃおもろいわ」


勘違ったギフト

「俺のお陰やろ?」
「財前くん!先輩がもし気づかんと食べたらどないするつもりやったん!」
「ん、俺の毒草の知識、なめたらあかんで!」



2011.04.14


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -