小説log | ナノ



例えば俺が、こいつとの会話の中で言葉の選択をミスする。意地っ張りな俺らはそんな些細なことで喧嘩になり、暫く互いに口を利かなくなる。そうして俺は『ああ、あんときの俺のあの台詞があかんやったんか』と事態を理解して、そうして少し自嘲気味に思うだろう。

「失敗せえへんようになれんかなあ」

A

でもそんな考えはきっとすぐに頭から消えてしまう。そんなのは絶対に有り得ないと分かってるから。これはいわばちょっとした現実逃避であって、本当にするべきことは今からきちんとやる。携帯で見慣れた名前を電話帳から呼び出して二回ボタンを押す。暫くするとそいつのなんとなく不機嫌な声が俺の耳へと雪崩れ込み、そのしかめ面を想像して自然とにやける口元を抑えながら、恐らくこいつは承諾してくれるだろうという確信めいたものを持ちつつ聞くのだ。

「今日、会って話さへん?」

Special

数時間後にそいつと会った俺は先ず反省の意を示して謝り頭を下げる。そうするとこいつは素直に謝られたことに若干の驚きを表し、恥ずかしそうに謝り返す。そうして後ろに隠し持っていたものを「じゃーん」と効果音付きで俺に差し出す。差し出されたのは黄色の花が鎮座する鉢植え。何となく見覚えのある花だ。

「ガーベラ、謙也に似合うなあ思うて」

And

ガーベラ、成る程確かに聞き覚えのある名前だ。大輪の目映い黄色が鮮やかで、この輝きが続けばいいな、とぼんやり思った。
だがしかし、俺は花を見くびっていた。取り敢えず水をやればいいだろうと思ってガンガンやっていたら、三日も経たないうちに弱々しい茶色になってしまい、もうあの鮮やかさの面影は無くなった。学校で植物オタクでもある白石にそのことを話してみると、アホやなあと真面目に哀れまれた上に、ばっさりと一言。

「あんなあ、水の遣りすぎや」

Ordinary

風呂に浸かりながら温い思考を泳ぐ。ここんところの俺は失敗続きだ、と少し憂鬱な気分に浸されてみる。その夜見た夢は現実とは裏腹に、ガーベラの鮮やかな黄色が咲き誇っていて、そこで俺とあいつが笑い合っていた。
そしていいところで目が覚めた。携帯で時間を確認しようと思って開いてみたものの、画面は真っ暗。ああ、充電するの忘れてた。いいや、二度寝してしまえ。今日は休みなんだ。そのまま意識を手放してしまおうと思ったところで、バッと思い出す。

「今日、あいつ来るんやった…!」

Holiday

危ない危ない、あのままだとパジャマのままお出迎えするところだった。携帯に充電器を差し込み、電源を入れる。すると続々と表示される沢山のメールと数件の不在着信。何事かと焦ったけれど、画面端に映った3/17の日付で解決した。なんだ、失敗続きのこんな俺だって、幸福な気持ちの朝を迎えることが出来るんだ。
あいつが来るまであと一時間。ホームセンターまで走って、枯らしてしまったあの鮮やかな黄色を新しく迎えに行こう。そしたらあいつがきっとそれに負けない眩しい笑顔で言ってくれる筈だ。


特別でいつも通りの休日に
おめでとう、ありがとう!




2012.03.17
bgm♪ホリデイ/BUMP
黄色のガーベラの花言葉は「究極の愛」「親しみやすい」など。



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