小説log | ナノ



*光くん高二、なまえさん高一設定


深い色に染まった空を尻目に、街は鮮やかな光をそこらじゅうにぶちまけて、なのに吐く息はやたら白くて、妙な違和感。

「あーもう、ほんま人遣い荒いわ」

ぐるぐるに巻いたお気に入りの赤のマフラー越しのくぐもったわたしの声に、浮かれ気分の皆々さまは気付く筈もない。

何故こんな街中に一人で突っ立っているのかというと、30分程前に届いた一通のメールの所為だ。
〈30分後に駅前のファミマ〉
このたった10文字余りの命令の為に、私は震えながら待っているのだ。(ある意味、会いたくて会いたくて震えている)

そうこうしているうちに雪が散らつき始めた。それと同時に女の人たちは猫撫で声で彼氏に縋りだす。ホワイトクリスマスだと騒ぐカップルたちに悪意は無いものの、待ち人が来ないわたしからしたら、簡潔に言うと、

「うっざい」
「何や、文句あるん?」

完璧に独り言のつもりで発した言葉に返事が来た。驚いて顔を上げると、目の前に待ちわびた顔があった。

「光先輩!遅い、っ痛!いだだ!」
「で、俺の何処がうっざいんや。言うてみろやボケ」
「ひゃいまふ!ほかいれふ!(ちゃいます!誤解です!)」
「あ?ちゃんと喋れ」
「ひふいん!!(理不尽!!)」

わたしの涙目の訴えで漸く引っ張っていた頬を離した光先輩。
先輩は、わたしも所属している軽音部の先輩である。わたしが先輩のギターの個性的な音に惹かれて、先輩が組んでいたバンドに入れてもらったのが出会いだ。

「もう、光先輩はほんま横暴すぎますって!カップルたちに少しイラっとしただけやのに!」
「なんや、んなことか。…非モテやからってそう僻むなや」
「そんなんちゃいますぅー!」

一応言っておくが、わたしと光先輩は付き合ってる訳じゃない。光先輩は確かに大層おモテになられる。だから勿論彼女は居るし……ってアレ?

「てか、なんでこないなとこに居るんすか?彼女さんは?」
「昨日別れた」
「はあ!?」

あっけらかんと言い放った先輩。よくもそんな簡単に言ってくれるなあ…。いや、それでこそ先輩が先輩である所以なんだけれども。

「それはまた唐突に…。何かあったんですか?」
「別に何かあったっちゅー訳やないねんけど、何ちゅーか、」

めんどくなった、といつもと変わらぬ表情で、でも少し怠そうに言った。そこには淋しさは無さそうに感じる。
意外に寒がりの先輩は、私よりも寒々しくしていた。以前わたしが先輩は寒がりだと指摘したら、先輩は「体温低いからや」と、納得いくようないかないような微妙な理屈をつけていた。

「どっか入ります?」
「おん。寒い、死ぬ」

こっち、と勝手に進み出した先輩の一歩半後ろを進む。先輩は振り返ることなく進み続け、その猫背に私は黙って着いていく。
先輩は、"彼女"と歩く速さを知っている。でも先輩はわたしを"彼女"さんと同じ扱いはしない。だからわたしと居るときの先輩は手も差し出さないし、疲れているときには無理に会話を繋げようとしない。
それでいい、それがいい。

「着いたで」
「お、わあ…!」

五分ほど歩いて着いた先は、カップルだらけのイルミネーションスポット。今年初の豪華なイルミネーションがあまりに綺麗で、柄にもなく感嘆の声を漏らしてしまった。
隣の先輩を見ると、何故か私を凝視していた。

「…何ですか?」
「自分もこういうの好きなん?」
「え?まあ、好きですけど」

そう言うと、ふーん、とだけ返事をした先輩。

「…え、何ですのその反応。そない意外っすか?」
「…いや、自分みたいな女の端くれでもそうなんやと思って」
「わたしに対してかなり失礼やと思うんですけど…てか何を悟った風な言い方してんすか」
「うっさい」

言いながら先輩は何かの箱でぺちっと頭を叩いてきた。角が地味に痛いんですけど。

「めんどくなった、っちゅーんは」

そしてこのタイミングでさっきの話の続きをしだした。先輩の行動はたまに理解不能である。先輩はやっぱり動物に例えるなら猫だな。

「彼女…あー、昨日までやから元カノか。そいつが、やたら期待しとったから」
「何に?」
「俺に、っちゅーか、俺の提供するクリスマスに」

寒そうに白い息を吐いて指先を暖める先輩。手袋してるのにどんだけ寒がりなんだ。ていうか、私は「どっか入ります?」って聞いたのに、連れて来たのは野外じゃないか。

「そない寒いなら、中で話しましょうよ」
「…いや、ここでええ」

普段は結構融通の利く人なのに、よく分からないところで頑固なのが先輩だ。寒いくせに、と言いかけた喉元には栓をした。何となく、空気に漂いそうな先輩の本質が掴めそうな気がしたから。

「あいつ、あからさまに期待してん。俺がどないなクリスマス過ごさしてくれるんやろ、て」
「ほう」
「何やねんその巫山戯た相槌、しばく」
「ちゃんと聞いてますて!ええから続けて下さいよ」
「……で、冷めてしもた。俺も色々クリスマスのプラン立てとってんけど、こんな奴の為にしてやってんのがむっちゃ阿呆らしく思えて、せやから昨日振った」
「…先輩はほんま酷ですねえ」

クリスマスを楽しみにしていた女を23日に振るなんて、私が少し苦笑いでそう言うと、先輩も同じような苦笑い。しかしそれすらイケメンな先輩が憎い。

「ええねん、どうせあいつストック居んねんから、今頃そいつとお楽しみ中やろ」
「ああ、ありえそう」
「…やっぱ寒い、中入るで」
「光先輩!」

(きっと、色々語った恥ずかしさから)くるり後ろを向いた先輩を引き止めに、ちょっと大きめの声を投げた。分かりやすく嫌そうな顔をした先輩にも怯まず、言葉を連ねる。どうやら聞いてくれるみたいだし。

「元カノさん、ここに連れてくるつもりやったんですか?」
「…普通それ聞く?せやけど」
「さっきわたしを叩いた箱も、元カノさんにあげるつもりやったんですか?」
「……ちゃうわボケ」

寒さで真っ赤になった鼻で罵声を浴びせる先輩は、またさっきの箱を取り出て、わたしの頭を軽く叩く。その表情は心なしか、先ほどよりも穏やかな気がした。

「これは、今日もロンリーの予定やった可哀想な後輩に、優しくてイケメンな先輩サンタからのプレゼントや」

聞き捨てならない言葉が多々あったけれど、先輩の顔を見たら、そんな雑言は吹っ飛んだ。

「…何で笑てんすか」
「笑てへん」
「じゃあにやけてます」
「にやけてへん。黙って受け取れへんのか自分ほんま可愛ないな」
「へへへ。じゃあ有り難く戴きます」
「にやけんな腹立つ」

ほら中入るで、と半ば投げやりに前を行く先輩。今度は、先輩の左手が私の右手をとった。知らぬ間に手袋を外していたらしい先輩の指先は、冷えきって真っ赤になっていて、それを見て後ろの私はまた密かににやけたのだ。

「なまえと居るときが、一番楽やわ」

嗚々、その一言だけで満たされちゃうわたしって、なんてお手軽な女なんだろう。


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サ ミ シ イ フ タ リ



2011.12.24


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