謙也さんは大人だ。
いつだってサークル全体を見渡して、誰かを決して一人にはさせない。もちろん謙也さんだって普通の大学生だから、苦手なタイプの人間だって居るだろう。けれど、全員と積極的に話しに行くのだ。それこそわたしのような喋り下手なぼんやりした女にも、である。
そんな謙也さんが誰からも好かれているのは、当たり前と言って差し支えないだろう。
「おいなまえ、まーたぼんやりしとったやろ!」
「…謙也さん」
久々のサークルの飲み会、それが卒コンともなれば、そりゃあもうめちゃくちゃである。
毎回一番端のテーブルは、既に潰れてしまった人たちと、お酒に弱いわたし他数名が介抱係として退避している。謙也さんが、潰しにかかる後輩たちからすり抜けた先がここだった。
「ここ居たって無駄ですって、どうせケントがすぐ来ますよ」
「せやけどあいつ今ミユに捕まっとるし、暫くは大丈夫や。」
顔を真っ赤にさせてそう言って笑う謙也さんがどれくらい酔ってるのかいまひとつわからないが、いつもは開始早々にぶっ倒れてるだけに(おだてれば飲んでくれるから、潰れる早さは正にスピードスターである。)、今回は粘ってるなあ、なんて。
「楽しんどるかー」
「はい、ちまちま飲んでますよ」
「これなまえの?なに?」
「ファジーネーブルです」
「こんなんほぼジュースやん」
わたしがグラス半分くらいまで少しずつ飲んでいたカクテルを謙也さんは一気に傾けた。少し小さくなった氷までガリガリ噛み砕いている。
「なまえ、」
「はい」
「自分な、しゃべりおもろいで」
「え?」
「しゃべんの苦手やって思っとるやろ。けど、なまえと喋んの楽しい」
謙也さんは普段からさらっとそんなことを言うことがあった。けれど今のこの言葉は、きっと心からそう思ってくれてるんだと伝わってくる。
この人は、優しさが過ぎる。
「謙也さんは、いっつも甘やかしますね」
「かわいいかわいい後輩やん、ええやろ」
「そんな風に言うの、謙也さんくらいです」
空になったグラスを握り締めればまだ冷たくて、手の熱を奪う。このまま火照ってるわたしの頭まですうっと冷やしてくれれば、こんな気持ちで送り出さずに済むのに。なんて、駄目な後輩だ。
「謙也さん」
「おー」
わたしと話しているのに、あまりに楽しそうに周りを見渡しているものだから、少し悔しくて惨めな気がして、お酒も少し回ってて。言い訳をつらつらと並べる脳内はもう完全に正常では無かったのだ。あーあ。本当に駄目な後輩だ。
「好きです」
喧騒に紛れさせたつもりのわたしの声はとても弱々しく、熱っぽかった。反射的に目をまん丸にしてこちらを見た謙也さんを、わたしは見つめることなんて出来る筈もなかった。
「おおきに」
この行動を悔やみ恨み、わたしは生きなければならないのだと、謙也さんの優し過ぎた声色で思わざるを得なかった。
春にさよなら
20140324
謙也さん誕生日記念なのにハッピーにならなくてすいません