焼け付くように照り返すアスファルトの上で、思い描いた蜃気楼は消えてしまった。新開の手が空を掠めた瞬間に。
周囲の観客たちの沸き立つ声が遠ざかってゆく。聞こえる筈がないのに、下を見ながら荒く息をする靖友の呼吸が、脳内で警鐘のようにキリキリ響き鳴る。

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...
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"あの頃"の話をしてくれた後の濁りのない瞳が、彼が着実に前に進んでるんだと印象づけた。その表情は、重たい荷物を下ろしたときのそれと似ていた。
真っ直ぐに前だけを見つめてペダルを回し続ける彼は、夏の日差しのようにギラギラと輝いていた。そうしてやっと、インターハイという最高の舞台へと辿り着いた。

きっと最初から、彼の為にわたしがやれることなんて高が知れていた。彼と同じ景色が見たい、そんな願いは高望みだと十分に分かっていたつもり。それでも彼は、わたしを頼りにしてる、なんて言ってくれるものだから、勘違いしてしまった。
だからこそわたしはその勘違いに自信を持つことにした。彼に、靖友に希望を託した。その熱さで溶けだしそうになったときも、わたしが出来る限りで拾い上げた。

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...
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「ヨォ」

滝のように汗を流しながら、息を切らしながら絞り出した言葉がそれか。とことん見栄っ張りな男だ。沿道でわたしを見つけ出した一瞬、安堵が表情に表れたくせに。

「なんで こんなとこ、居んのよ」
「…るっせ、よ、バァカ」

少し余裕ができた靖友は、真っ先にゴールの方角を見た。勿論トップの選手たちはとっくに走り去り、その姿は見えない。けれど彼の目つきはいつもより穏やかだった気がする。そうしてゆっくりと、本部に向かってロードを押し進める。待機しているマネージャーもお待ちかねだろう。

「靖友お!」
「んだよ」
「ずっと夢見たインハイ3日目ラストステージを、先頭で走った」

怪訝そうな顔をしつつも、わたしをしっかり見る。疲労からか、長いこと受けているはずの日差しを改めて感じたらしい。元より細い目を更に細め、眩しそうにしている。

「今の気持ちは?」

青すぎる空が、靖友の3年間の終焉を告げるようで泣ける。けどわたしは泣かない。彼自身がこの夏を噛み砕いて消化するまでは。

「もう満腹だ」

そう言った靖友の表情は、夏の日差しに負けないくらいに晴れやかだった。眩しいなあ。
限界を告げる警戒音が鳴り響いてなお、前へと進み、チームを前へと進ませた靖友。弱さも挫折も知っている靖友の臨界点は、まだまだ遠くにある筈だ。
ふたりでゆっくり歩みを進める。靖友の夏はここで終わりだけど、この夏が、靖友の入口なんだ。

「お疲れさま。頑張ったね、靖友」
「オメェも、よくついてきたんじゃナァイ」



......
♪エントランス/ASIAN KUNG-FU GENERATION


20131211
真夏さまへ提出
素敵な企画をありがとうございました!


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