高校生のわたしたちにとっても、クラス替えというのはビッグイベントなのだ。
例えばわたしに好きな人が居て、その好きな人が彼女とクラスが離れてしまって、わたしと同じクラスになってしまったら。

「吉田くん」
「ん?おー、お前居たのか!」
「2年目だね。今年もよろしく」
「おー!」

よ、よかった。普通に話せた。笑ってくれた。
吉田くんならきっとすぐに友だちができる。だからそれまでのちょっとした中継ぎくらいは、去年も同じクラスだったわたしに務められるでしょ?

「水谷さんたち、揃ってB組だったね」
「そうなんだよー、でも、17の俺は一味違う!」
「…17?」
「へへっ、俺、2日が誕生日!」

わたしが首を傾げると、得意気にそう言ってまたニッとはにかんだ吉田くん。無自覚だろうけど、その笑顔たまらなくイケメンなんですよ。
好きって言っても目の保養でしょ?って言われると、はっきりと否定は出来ない。でも、それだけじゃないのは確かで。でも、水谷さんから奪いたいだなんてこれっぽっちも思ってないのも事実。…ああ、わたしの「でも、でも」病、いい加減治さなきゃなあ。

「そうなんだ、おめでとう!」
「おう!サンキュ」
「じゃあ吉田くん、名前の由来が割と単純なんだね」

春生まれだから、春くん。独りごちたように呟けば、吉田くんはちょっと嬉しそうにした。今日はなかなか上機嫌なようで。

「なんだ、下の名前知ってたのか」
「…そりゃあ知ってるよ」
「じゃあそっちで呼べよ、シズクも夏目も呼んでる」

ああ吉田くん、貴方っていう人は。
こんなちっぽけな下心で話しかけているわたしに、そんな友だちみたいに接しないで。わたしバカだから、気まぐれで与えられた吉田くんの優しさで付け上がってしまう。
わたしはただの繋ぎだ、吉田くんがクラスに溶け込めるまでのほんの僅かを共有するだけ。そうして吉田くんが友だちができれば、何事も無かったようにわたしもきみもそれぞれの友だちと過ごすんだ。そのとき吉田くんの中のわたしの存在は、クラスのモブになる。
ああ、だけど今この時だけは、

「ハル、くん」


春は盲目