スパヒロ組と四季の掌編


▽孫悟飯・春
 地球には四季があります。多くの人と同じように僕もそれらを感じとって過ごしました。少々、独特の事情があって、貴方と同じ知り方ではないだろうということを理解してもらえるとありがたいです。天体の傾きによって日の長さは変わりますよね。僕は、荒野に生息する肉食動物たちの起床時間や、たわわな実をつけた枝のしなりようや、川を溯上する群れのきらめく鱗の反射などで、月日の経過をはかりました。自然に身を置けば自ずと分かるようになりますよ。悟飯くんみたいにわたしも感じてみたい、ですか? ええ、今度一緒に行きましょう。約束です。一番好きな季節は、やっぱり春でしょうか。蟄虫啓戸。冬篭りの土から目覚めた虫も、羽毛布団から飛び起きた人間も大差ありません。恋に焦がれた相手、というのは待ち遠しいものでしょう……あはは、我ながらくさい台詞ですけど、でも、本気でそう思っているんです。人の形をした春が、貴方だと。


▽ピッコロ・夏
 暑さにやられることはまずない。だが光には眩む。万緑の草木が日差しを吸い、四方八方へ吐き出すのだ。これがなかなか疎ましい。季節ごとに特色はあれど、空は想像上の神のような気まぐれをいかんなく発揮する。太陽の牙が隠されたと思えば次には雲が爪を研ぐ。生きとし生けるものを勝手気儘な大雨が濡らしてゆくさまを、修行の上空から認めた。ピッコロがうらやましいとお前が言ったのはいくつか前の夏だった。飛べるなんて。どれだけすばらしい景色を眺めているの、と。生憎と目を閉じているから、想像するようなものは拝んじゃいない。瞼の裏。上等と思えるものはすべて鼓膜を震わせる。晴雨兼用の傘を打つ雨音。膨大な水を含んだ靴下とスニーカーの衣擦れ。泥を踏み越える音。気怠い湿度に文句を垂れる声。それらが、一歩、また一歩と、今年も俺のもとへ近づいてくること。もう春は過ぎ去ったのか。お前が引き連れてくる夏を、いつだって俺は耳でもって知る。


▽ガンマ1号・秋
 色鮮やかな家にて。読書をしようと貴方は言う。週ごとに入れ替わる背表紙のアルファベットが順序よく並ぶ。二人掛けのソファーに隣り合って腰かけては、薦められた書籍の内容など微塵も入ってこなかった。運動をしようと貴方は言う。ただし外には出ない、と。ヨガマットの上、柔軟体操で苦戦を強いられている姿に思わず笑ってしまい、曲がってしまったへその対処に手こずった。調理をしようと貴方は言う。旬の食材が溢れるキッチンには同じ柄で色味だけ違うエプロンが用意されていた。赤と青。迷わず後者を選ぶ。きょとんとしたかわいらしい表情であれ本心は口にできない。私の色を纏ってもらいたかった、など。贅沢な季節だ。夏より短いのに楽しむべき事柄はたくさんあるのだから、一分一秒も無駄にできないよと貴方が笑う。なるほど。紅葉に似て、昨日より今日の、今日より明日の、好き、は深まる。秋に色づく貴方をずっと見続けたところで、食傷にはほど遠い。


▽ガンマ2号・冬
 乾燥気味の唇から息がたゆたう。真っ白だ。排気すれば僕も同じ。はじめてみたときは驚いたよ。魔法? 不具合? 訊ねたら君は大笑いしていたな。人造人間にとって白煙は故障の印だからしょうがなかったんだ。寒さにめっぽう弱い人間だ。僕には分からない苦しみがあるはず。寒い、暑い、の重ね着のライン。透明度の高い空に目を奪われるという危険。中毒のようにあたたかい料理を取り入れたくなる心理作用。わざわざ手袋を外した君のかじかむ指と絡め合う。冬も2号のぬくもりも好き――表面温度操作は得意じゃない。好きな子がそばにいると否応なしに温度が上昇するなんて欠陥だ。でも、君は愛してくれる。それもこの時季限定なのかな? 苦笑する僕を不思議そうに見つめる瞳に、秋とは趣の異なる凛然とした夜が映り込む。ほほえむような星々をうら悲しくもうつくしいと認識した。だめだな、すぐ影響されて。君が好きな冬を、僕も好きだよ。


〈了〉



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