物語前夜

ギリギリギリギリ
ミシミシミシミシ

「こんのすけ・・・もう一回言ってくれるかい?」

お目付役の式神・こんのすけを前にニッコリと一見誰もが見惚れる程愛らしく、その実背後に般若を浮かべて微笑む人物。
水干のような狩衣のような衣装に袴を合わせた着物を纏った、男性にも女性にも、子供にも大人にも見える、華奢な体つきで高くも低くも無い声を持った不思議な人物。
だがしかし、その甘いマスクに騙されることなかれ。


その右手につい先程まで握られていた万年筆はボッキリ折れている!


「・・・・・・えーっと、現在江戸幕末の時代に大量の遡行軍がなだれ込んでいるとの情報が入りまして」
「うん、それで?」
「その数があまりにも大軍の為、雅様・・・と言いますか、本丸の空間ごと一時江戸幕末の時間軸にくっ付けて、付ききっきりで討伐に当たって頂けないかという・・・」

パチン

ビクゥッ!!

新しい万年筆(書類作成の途中だった)を文机に置く音に、思いっきり両肩を跳ね上げるこんのすけ・・・のみならず、今この場にいる雅と慣れているらしい近侍の山姥切国広以外の全員(主に遊びに来てた短刀達)。

「雅、皆が怖がってる」
「何で?あ、こんのすけ、書類出来たから帰る時持ってって」
「は、はい。お疲れ様です・・・って、そうではなくて!」
「ん?江戸幕末への本丸丸ごと長期出張の話なら別にOKだけど」

「「「は・・・?」」」

てっきり(絶対零度の微笑みとアイアンクローで)断られるかと思っていた国広を以外の一同は、ポカーンと言う擬音を背後に浮かべて固まった。
その様子を、国広が淹れてくれたお茶を飲みながら眺める。

見事なアホ面が並んでいた。

「よ、よよよよよよよよろしいのですか!?」
「え、うん」

真っ先に我に返ったのはこんのすけだった。
続いて薬研、燭台切、一期・・・と次々我に返っては何やら喚いている。

「うん、お前達が僕の事をどう認識してるのかはよく分かったから黙れ」
「「「「はい」」」」
「ん〜・・・」

湯呑を国広が持っていたお盆に返してグッ、と伸びをする。
肩凝った。書類仕事はやっぱ苦手だ。

「別に・・・それってさ、審神者(僕)も江戸幕末に長期滞在して、その場で指揮して良いって言うか、した方が良いって事だろ?」
「は、はい・・・そう言う事になりますね」
「僕さ、今まで皆(刀剣達)が過去飛んでってるの、ちょっと羨ましかったからさ。別にいいよ?貴重な体験できるって事で」

それに、

「そんな大がかりの討伐なら向こうの政府にも話し通しといた方が良いだろうけど、幕末なら幕府と皇族両方に通さないといけないだろ?」

その時、本丸最古の刀剣である山姥切国広とこんのすけは思った。


「話、政府(そっち)で通しといてくれるだろ?」


あ、これは一番最初(審神者任命とは名ばかりの拉致事件)に見たのと同じ、一番ブチ切れてる時の顔だ・・・と。
 
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