第一節
 
さて、本丸に戻るか・・・と踵を返したその時。

「ッ!!」
(雅!!)
(雅ちゃん!?)

太腿に焼けるような激痛が走った。


その場にしゃがみ込みそうになるのを何とか堪え視線を落とすと、太腿に小さな小刀・・・――所謂、クナイと呼ばれるものが突き刺さっていた。
“これ”を放った人物は暗殺なんかに秀でている人物なのだろう。
姿の見えない敵を相手に、足跡だけで確実に足を止められる手段を取る辺り、相当腕が立ち、また頭も切れるとみていいだろう。
少し厄介だな・・・

ふと、気付いた。

――・・・帯に挿してあった刀が一振り無い・・・――



「国広ッ殺すなあ!!!!」



痛みに震える声帯に鞭を打ち、怒りに我を忘れ、今にも禁忌を犯さんとしている最愛の懐刀の名を叫ぶ。
同時に、今ので体中に力を使い切ってしまったかのように、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。
隠形の術も解けてしまったらしい。
突然現れた謎の人物に、何とか起き上った新選組隊士3人が瞠目する。

クナイを投げ捨て、一気に“赤”が噴出した太腿を押さえるが止まらない。
顔や髪にも飛び散った“赤”を拭う様子も見せず、むしろ溢れ出る“赤”に忌々し気に舌打ちし、雅は一点を睨み見据える。


その視線の先にあるのは、仰向けで倒れ伏す忍装束の青年の首元擦れ擦れの位置に突き刺さった一振りの刀。
忍装束の青年は、まるで“見えない何か押さえつけられている”かのように苦悶の声を漏らしていた。

「ッぐぁ・・・」
「山崎くんッ!」

青年の呻き声に、茶髪の男が悲鳴の様に名を叫ぶ。
青褪める男には一瞥もくれず、今にも青年の首を落とさんと・・・もしくはこのまま圧し殺さんとする懐刀に語りかける。

「筋は斬っていないから傷が塞がればまた歩けるよ。問題無いさ」
「・・・・・・あなたを傷付けた」
「それがその子の仕事だからね。お前の仕事は何だい?・・・・・・その子を殺し、今ここで歴史を修正することか」
「・・・・・・・・・」
「頼むから、堕ちてくれるなよ。僕の懐刀・・・お前が堕ちれば、僕は哀しい」


青年の首筋を切り裂き、決して少なくはない量の“赤”を滴らせていた一振りの刀が、ふっと、霧の様に立ち消えた。
刀が懐に戻るのと、貧血で雅が意識を失うのはほぼ同時だった。



もし、僕が眠っている間にお前たちの内、誰か一人でも傷付けられかねない事態になったら、全力で抵抗しなさい。
・・・誰一人として、欠ける事を僕は許さない。



だから、この言葉はその場に控えていた四振りの刀剣達しか知らない。
 
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