ねたんこなすび
 
数年後、かつてあった城が一晩で瓦礫と化したというその土地に、大きな花束を抱えた二人の青年が訪れた。
クセのある茶色い髪を高く結った青年と鋭い目つきの黒髪の青年・・・忍術学園の、現在の六年生である善法寺伊作と食満留三郎。

「この辺りか?」
「多分・・・行けば分かるって言われたけど・・・」

二人を含む現在の六年生が入学する二年前、卒業試験を目前に控えた最後の実習に出た六年生が一人を残して全滅したと言うのは、実習の内容が本格的になる四年生に進級する時点で既に聞いていた。
生き残った生徒がたった一人で仲間の仇である城を落とした話を含め、その後その生徒も行方知れずとなり、その年は≪卒業生が一人も出なかった年≫として同級生の間ではある意味伝説と化している。
ちなみに、その年の六年生達に関する資料や記録は一切閲覧禁止になっていると聞いた。閑話休題。

以降、毎年学園長を初め大勢の先生方が毎年供養の為(遺体が無く墓が作れなかったので)この地を訪れているのだという。
大分時期外れではあるが、学園長のお使いで近くを通ったついでに寄ってみたのだ。


「・・・あ」


視界の端に映り込む薄紅色の小さな影に顔を上げれば、そこは数え切れない数の八重桜の群生地。
今の今まで二人が全く気付かなかった事が不思議な程の、見事なまでの千本桜。
よく見ると桜だけでなく、蒲公英(タンポポ)にハクモクレンにハナミズキなど、春を代表するありとあらゆる花々が咲き誇り、花特有の甘い香りが思わず足を踏み入れた二人を包み込む。

そしてよくよく目を凝らしてみると、花や木の隙間から覗く荘厳な細工や彫刻が施された石碑が全部で≪七つ≫。

「すごい、こんな場所があったなんて・・・」
「全然気付かなかった」


「そりゃあ・・・普段は幻術で隠されてますから」


ちなみに春は桜で夏はクチナシ、秋は金木犀で冬は椿が咲きますよ。

気配をまったく感じなかったにも関わらず、突然聞こえた声にとっさに振り返ると、そこには石碑に柄杓で水をかける二十代前半と見られる若い男の姿があった。
陽光を反射しキラキラと輝く白髪(一瞬年齢の判断がつかないほど真っ白い)は留三郎よりもかなり短く、襟足で一房だけ伸ばして三つ編みにしている。
派手すぎない上品な華やかさの着物を重ねて着崩し革製の帯を巻いて、見た事のない金属の装飾品をつけている。

「毒が遺体の腐食に比例して空気中に散布されてしまいましてね」

耐性の無い一般人や解毒剤を持たない人にこの場所は見つけられません。
おかげで獣や墓荒らしの心配も無く、年中絶える事無くこうして美しく彩られております。
彼らを殺した毒が、彼らの墓を守っているだなんて・・・皮肉な物です。
殿に言われて検死したところ、どの子も十代中頃の若者ばかりで・・・世の中不条理ですねぇ。

「貴方は・・・?」
「わたしはしがない墓守ですよ。殿より賜った名以外のものは何も持ち合わせておりません」

八年前のあの日、わたしがわたしでなくなってしまった時点で、わたしは最早この世の誰でもないのです。
 
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