1 NighT
 
卒業実習を終えたといっても、訓練兵の大半がまだ成人すらしていない子供の集団。
それに、訓練は板と藁で出来た動かない模型を相手に行われていた。つまり、実際に巨人と対峙した経験のある者など極々一部しかいない状況だ。
本部は恐怖と混乱を極めていた。

エレンとぶつかったジャンも、エレンに突っかかること自体はいつもの事だが表情が強張り、必要以上に力が入っているのか、エレンに対して普段以上の罵倒を並べる。
胸ぐらを掴む手を振り払って逆に腕を掴み、エレンは叫ぶ。

「あの血ヘドを吐いた三年間を思い出せよ!!」
何度も死にそうになったし、実際に死んでしまった奴もいた。
怪我をした奴も、追い出された奴も。

それでも自分たちは生き残った。
そして今回も生き残ればいい。
生き残って明日内地に行けばいい。生きたければ戦うしかない。

戦わなければ死ぬしかないのだから。


「チッ・・・おら、ダズいつまで泣いてんだ!」
「ジャン・・・・・・死ぬなよ」
「オレの心配するより自分の心配しやがれ、死に急ぎ野郎」

未だ吐きながら泣いているダズを蹴り飛ばすジャンの後ろ姿に、思わず苦笑する。
嫌味を返せるだけの余裕が戻ってきたのなら、もう大丈夫だろう。

「エレン。戦闘が混乱してきたらすぐ私のところへ来て」
「ミカサ、お前とは別々の班だろうが」
「混乱した状況下では筋書き通りにはいかない・・・私はあなたを守る」

友として幼馴染みとして、心配してくれるのは嬉しいがエレンはもう15歳な訳で、まだ子供と呼ばれる年齢ではあるものの守られてばかりの年でもない。
寧ろエレンは、そんなミカサの方が心配だった。

「ミカサ、そんなに心配ならさっさと住民の避難を終わらせてこっちに来い。それと『避難が遅れているのは豚の所為だ。こっちに合流する時はガスを補給してから来い』」
「・・・・・・分かった。あなたがそう言うなら従う」

上官からの命令とエレンに言われて渋々といった体で持ち場に向かうミカサの背を見送るエレンに脳裏に、再び声が響く。


―いい仲間を持ったな、大切にしろよ?―
「(・・・アンタは俺の保護者か!?)」
―そう大差無いさ。さて、同期達を集めろ。指示を出す―
「(偉そうだな・・・けど今はアンタに従うさ)」


この“声”が敵だろうが味方だろうが関係ない。
対巨人戦の経験が皆無な上、上官がまるで役に立たない以上エレンはこの“声”に頼るしかない為に、利用できるものはとことん利用してやる腹積もりだった。

・・・絶対、生き残ってみせる。
エレンの瞳がギラギラと黄金に輝いていた。
 
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