グレンの言葉がトロスト区内に響き渡る。
救護に当たっていた彼の部下達は、微かに口角を上げて微笑んだ。
「き、キッツ隊長・・・」
「・・・・・・何だ」
「リーバーが、いないんです・・・もしかしたら、瓦礫に挟まれて動けないのかもしれない」
「サマンナもです。もしかしたら、頭を怪我して倒れてるのかも・・・」
「アクノマ、それにテスラも、マリーもいません」
「レイと、今晩飲もうって・・・約束したんです」
「今朝、カロンが・・・もうすぐ子供が生まれるって話してて、だから・・・なのにッ」
今にも泣き出しそうな、縋るような視線が、あちこちからキッツに向けられる。
手に力を込めすぎた半刃刀身の柄から軋むような音が鳴り、キッツはグレンに向き直った。
「隊長殿・・・」
「何だ?」
「礼を言う!!」
駐屯兵を一瞥し、あちこち建物が崩れている街を見渡す。
「1班から10班は瓦礫の除去!11、12班は医療物資を運び、残りは怪我人の救護に当たれ!!」
「「「「「ッはい!!!!」」」」」
涙を拭おうともせず、駐屯兵達は一斉に立体起動で飛び出した。
その背を見送って小さく笑みを浮かべると、ジャケットを翻し意識の戻らないエレンと、エレンを抱き寄せるアルミン、ミカサ、3人を背に庇うレスティを一瞥する。
グラッ
「レスティ!?」
「!!!!」
「このバカが・・・」
直後、顔から完全に血の気の失せたレスティが崩れるように倒れた。
地面に激突する寸前に、グレンはその華奢な肢体を受け止める。
悪態をつきつつも、応急処置を施すのだった。
「あの、先程はありがとうございました・・・」
意識を失っているレスティの両足を止血し、胸周りを固定すると一瞬の静寂が支配する。
真っ先に破ったのはグレンに頭を下げたアルミン。
グレンが駐屯兵を黙らせた時の事を言っているのだろう。
ミカサもそれに倣い、「ありがとうございました」と、頭を下げる。
「別に・・・お前ら、怪我は?」
「え、いえ。大丈夫です」
「私も・・・レスティは?」
「骨が何本か折れてるし、足の筋肉と腱がバッサリだけど・・・訓練の怪我に比べたら軽い」
問題無ぇよ。
そう言って治療に使った道具を片付けるグレンに、2人は複雑な心境を抱いた。
こんな大怪我が軽傷って・・・普段どんな訓練してんだよ!と内心盛大に突っ込む。
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