貴族の男が出て行くのと入れ替わって、エレン達が部屋に入って来る。
「今のは・・・ドレッサー家の当主だな、会議にも出席していた」
「ドレッサー家って、貴族の?」
「何だってこんな所に・・・」
エルヴィン、ハンジ、リヴァイが首を傾げていると、それまで緊張した様子で固まっていたウィルが盛大に溜め息を吐いた。
「・・・ヒヤヒヤさせないでください。床踏み抜かっただけマシですけど」
「俺だって相当我慢したからな・・・レスティ、今の男どう思った?」
グレンの問いに、それまで狸寝入りをしていたレスティはのっそりと上半身を起こす。
トロスト区での戦いでアバラを何本か折ってしまったものの、“北”の訓練と比べれば何て事無いし、もう殆ど治っているので問題ない。
『・・・御子息が大佐に憧れを抱いているのは、本当でしょう』
恐らく、息子の付き添いと称してもう一人送り込んできます。
息子はただのカムフラージュ。本当に入隊させたいのは、そのもう一人。
「息子の思いを利用して探る気か・・・嫌な親ですね」
「おい、さっきから何の話をしてやがる」
いい加減痺れを切らしたリヴァイが苛立ちを隠そうともせず口を開いた。
その様に苦笑し、見苦しい所を見せた、と呟くグレン。
「よくある事だ。“北(うち)”の者がチョットでも“南”に顔を出せば、豚共がしゃしゃり出る」
ある者は資金援助の話を持ちかけ、ある者は物資援助の話を持ちかけ、貴族達はあらゆる手段で“北”と関わりを持とうとする。
“北”が謎に包まれるが故、興味を抱いた豚はその内情を探ろうとする。
時には次期当主となり得る息子や王族の妻にする予定だった娘をも利用して。
「会議が終わってから、これで3件目・・・だから来たくなかったんだ」
「そして隊長がイライラする度にモノを壊す・・・って悪循環です」
大理石の床を踏み抜いたことだってありましたから。
ちなみにスパイとして入り込んだ連中は、“北”の訓練の過酷からか情報を探るという仕事を放棄して、大半が逃げ出している。
貴族の息子や娘の場合、逃げ帰っても勘当されるのが関の山の為仕事は放棄し、心を入れ替え立派に“北”の一員となっている。
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