ベッドの傍の椅子に腰掛け、レスティが目を覚ますのを延々と待ち続ける貴族の男に、虫唾が走る。
どうせ、謎に包まれた“北”の情報を聞き出そうとしているのだろうけど・・・
『(貴方がいる限り、起きるつもりないから)』
だが、この男が居座り続けて30分以上は経っている。
いい加減鬱陶しい。
・・・というわけで、グレンにSOS信号を送った。
袖に仕込んでいた小指の爪ほどの大きさのガラス玉を割ると、半径数キロ圏内に指笛の音が響く仕掛けだ。
ただし、正確には兵士としての訓練を積んだ人間にのみ聞こえる、少し(かなり)特殊な音波が放射される。
“北”が開発した“南”でいう信号弾・・・のかなりハイスペックなやつ。
だからこの男は気づいていない。
コンコン
静まり返った室内に、ノック音が響く。
部屋主が寝ているため、当然対応に当たるのは貴族の男。
「・・・・・・は・・・る・・・・・・すよ」
未だ、レスティが寝たふりをしていると気づかない男は、こちらを気遣い小声だ。
対する来訪者たちは、当然レスティが狸寝入りをしていると気づいている。
何も言わないのは、[そのまま続けろ]のサイン。
「ところで、北方面駐屯隊隊長殿にお話がございまして・・・」
「・・・何でしょう」
「もうすぐ18になる息子がいるのですが、隊長殿の勇姿に大変感銘を受けたようでありまして」
この男が何を言いたいのか、既に察しているグレンは眉間にシワを寄せないよう必死だ。
一切口を挟まず、傍観しているレスティとウィルからすればグレンの苛立ちが容量をオーバーし、彼が(石造りの)床を踏み抜いてしまう方が心配だ。
ただでさえ、会議中にグレンが机を踏み抜いた所為で総帥あての請求書が届かないか、心配で心配で頭が痛いのに・・・
それに気づかない男は一人、話を続けた。
「私としては、是非とも息子を、北方面駐屯隊に入隊させたいと・・・」
「・・・うちの訓練は過酷ですよ。死ぬ事もある」
それで自慢のご子息が死ぬような事になっても、文句を言うなよ。
言外に、そう忠告するグレンに、貴族の男はイヤラシい笑みを浮かべた。
「何、憧れの隊長殿と同じ訓練を受けて死んだのであれば、息子も本望でしょう」
そう言って、男は部屋を出て行った。
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