ピクシス達の訪問から、更に二日経つ。
その頃には、エレンは見張りの憲兵ともある程度打ち解けていた。
幽閉されて最初の頃はかなり忌避されていたのだが、中身はただの十五歳の少年だと分かったのだろう、質素な食事に時折、憲兵ならではのルーツで手に入るのだというお菓子を添えてくれる。
なんでも、滅多に会えないがエレンと同い年くらいの息子がいるらしい。
だが幽閉されて以来、あの“声”が聞こえる事は無く、度々話題に上がる“北”が会いに来ることもなかった。
「エッレぇぇぇぇええエンッッ!!!おっ待たせぇぇ!!」
スキップを踏むような軽やかな足取りで、
尚且つ嵐の如く勢いで、
幽閉されて一週間以上経ったその日、
その人間嵐は現れた。
「ごめんねーっ!エレン待たせたね!でもやっとここから出られそうなんだ!」
人か巨人かが曖昧なエレンの事を怖がるでもなく、寧ろ興味津々と言いたげに頬を薄く上気させ、エレンのいる格子まで近付いて来る。
その呼気が興奮からなのか若干(いや、かなり)荒くなっているのを確認し、エレンの口元が引き攣り、反射的に一歩後ずさった。
「ほらほら、さっさと鍵開けて!ふはーッ見た感じふつーの人間だね!ちょっと解剖してみたいなー!!」
枷を外されて、立ち上がったエレンの肩や背中をぺたぺたと触りまくる。
見張りの憲兵に離れろと牽制されても尚鼻息が荒い。
鼻の穴が膨らんで、すぴすぴ言っている。
本能で察した。
この人は危険だ、色々な意味で。
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