2 NighT
 
目にも止まらぬ速さで巨人を瞬殺し、黒い外套を翻して目の前に降り立つ人物。
纏っているのは、訓練兵に憲兵、調査兵、駐屯兵・・・どれにも当てはまらないエンブレムが装飾された黒のロングジャケット。
貴族が持っていそうな、しかし華美ではなく品の良い細工の双剣を太腿に固定された鞘に戻し、エレン達に振り返る。


後姿ではジャケットの裾に隠れて分かりにくかったが、身に付ける立体起動装置も自分達の物とは全く異なる形状をしている。
双剣もよく見ると装飾が施されているだけではなく、エレン達の使う硬質の半刃刀身とは違って、硬い何かから削り出したような形状をしていた。

目深に被ったフードの隙間から零れる金色の髪がサラリと揺れる。

砂と埃で視界状況が最悪な中、頭から爪先までほぼ黒で統一されたその人物がひどく気高く、神秘的で尊い存在に思えた。


おそらく、彼女が“声”の言っていた援軍なのだろう。
事前に卒業前だと聞いていた割には、登場早々精鋭兵顔負けの剣技を披露していたのだが。

「え、っと・・・どちら様?もしかして、エレンの知り合い?」
「あっ・・・と、初対面(の筈)・・・・・・と言うか来る奴、まだ卒業前って聞いてたんだけど」
「「「「「「「「・・・え」」」」」」」

早々巨人数体を瞬殺した目の前の少女が卒業前。
つまりエレン達の後輩にあたる。

衝撃の事実に、少女を凝視したまま呆然とする一同。
そんな訓練生(彼女からすれば先輩に当たる)を一瞥し、少女は胸の前で右拳を左掌で包むように構え、軽く頭を下げた。


『“北方面”第38期訓練兵団所属、レスティ・ヴァルス』


ジャケットに施された装飾がシャラリと揺れる。
そこにあるのは、真夜中の空や凪いだ湖のような、ただただ静かな瞳。
いつ巨人が襲ってきてもおかしくない戦場にありながら、レスティと名乗った少女の瞳につられ、その場の時間が一瞬、止まったような錯覚を起こした。

「き、北の・・・訓練兵?」

まっさきに我に返ったのはアルミンだった。

訓練兵団はウォール・ローゼの東西南北に一つずつ存在する。
その内の、北の訓練兵団から派遣された兵士・・・

「じゃ、ないよね・・・」
『・・・私は、ウォール・ローゼ北方面駐屯隊から派遣された者です』

淡々と答える少女、レスティは北流らしい敬礼の姿勢をもう一度取り、小さく頭を下げた。
 
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