あるアパートの一室。大量の本に埋め尽くされているその部屋にはエルと、真火がいた。
真火は先程まで忙しく走らせていたペンを机の上に投げ出すと、んーっと背伸びをした。机の上には大量の紙と、『シンオウ神話』と書かれた本が数冊置かれてある。普通の人が見たら紙に書かれてある文字の多さに驚くだろう。
真火は紙を何束かにまとめて机の上を綺麗にする。それでも汚いのだが…

「エルちゃーん!終わったよ〜手伝わせてごめんね〜」

真火は後ろを振り返って、エルに声をかける。しかし、いつまで経っても返事が返ってこないのに疑問を感じた真火は「よっこらせ」と声を出しながら立ち上がった。

「エルちゃーん?あらら…」
「……」

エアコンの風が丁度よく当たる場所に置いてあるソファーにエルはいた。いや、正確には"寝ていた"。
顔の上に『お酒図鑑』の本を開いて乗せて、スヤスヤと寝息をたてている。それを見て真火は小さく笑った。

「はは、お酒かぁ。エルちゃんらしいな」

もう少し年相応の本を読めばいいのに。と真火は思ったが、育ってきた環境が環境だ…「仕方ないかぁ」と呟いて真火はエルに近くに置いてあった毛布をかけてあげる。本を持ち上げて顔を覗き込むと、静かに寝息をたてていた。その顔はちゃんと年相応の表情だった。
身長と容姿のせいで大人びて見えるエルだったが、ちゃんと女の子らしい部分も持っているのだ。真火はフワッと微笑んで向かいのソファーに座り、エルが読んでいた本を読み始めた。しかし、何か思い出しのたか、顔を上げる。

「……そう言えば、エルちゃんおっきくなったよね」

最初に会った時はエルはボロボロだった。服も、髪も…何もかも。
アラシと2人で歓楽街を歩いていた時、スリをしていたエルに出会った。幼く、まだ世界の何もかもが敵だと信じていた彼女も…今ではここまで成長した。伝説の分類に入る自分はこれ以上成長することは無に等しい。だからエルの成長を見ていけるのは、自分の子どもの成長を見守るようで嬉しかった…

「うん。いずれか好きな人とかできるんだろぉね。楽しみだな〜」

真火はにこにこ笑いながら再び本に視線を戻した。



静かな一時


真火とエルは兄妹みたいな仲

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