飽きたから捨てただけ? | ナノ





放課後の居残り掃除を賭けた大切なじゃんけんに負けてしまい、俺は一人で掃除をしてゴミ捨てに来ていた。掃除当番がサボってたのか、それとも俺が真剣にやり過ぎたのかは不明だけど大量のゴミの入ったゴミ箱を抱えて校舎裏のゴミ捨て場に行こうとしていた。


ゴミ捨て場まで数メートルという距離で、あの曲がり角を曲がれば、ようやく重いゴミ箱を抱える苦痛から解放されると思っていた矢先に悲鳴にも似た叫び声が響いてきた



「さいってー!」



「…!?」


手元のゴミ箱を置いて曲がり角から覗くように見ると女子生徒が涙を零しているのが見える。男子生徒は背を向けていて見えないけど、今の状況に危機は抱いてない様に見える


二人のカップルらしき人はゴミ捨て場の前で言い争いをしているので出て行こうにも出て行きづらいので、覗き見の様に二人を見守っていると男の方が口を開いた



「最低?別に良いぜ最低で。」

「…っ!」



なんで火に油を注ぐような事を言うんだよ!と心の中でツッコミを入れていると、女子生徒の方が手を振り上げて、そのまま男子生徒の頬を、か細い手で力一杯叩いた。


パァンと乾いた音が響く
女子生徒は泣いた顔のまま目の前の男に捨て台詞を吐いた



「あんた…、腐ってる…っ」

「さっさと行けよ、クソ女」

「……っ」



綺麗な顔を更に歪ませて女子生徒は校門の方へと走っていってしまった。


俺は、所謂"修羅場"と言うのを初めて見た。そのせいか、当初の目的も忘れて、曲がり角でボーっと突っ立っていると先程まで賑やかだった方から声が飛んできた



「いつまで覗き見してるつもりだ、そこの奴」

「…え!?」

「見せ物じゃねえんだけど」

「あ…。」



背を向けていたはずの男子生徒が此方をガン見していた。

俺は忘れかけていたゴミ箱を持って、曲がり角から出てゴミ捨て場の所に行って弁解もとい言い訳



「ゴミを捨てに来ただけだ!」

「ふーん…、まぁ良いけど」

「…覗き見は、謝るけど。」

「別に良いぜ、見られたってどうでもいいしな」



以外にあっさりと許してもらえた。怒られるとばかり思っていたので下を見て俯いていたのだけど、怒られない感じなので顔を上げると、そこには…


絶世のイケメンが居た。



俺は初めて知った事が二つある

一つは開いた口が塞がらないという諺は現実に忠実に出来ていると言う事

もう一つは…、目の前の男子生徒は学年一の有名人のカグラ・デムリだったと言う事


俺が驚きのあまり黙っていると、カグラから話しかけられた



「人の顔見て驚くなよ」

「…おお驚いてないけど!?」



唐突に話しかけられた事や初めて間近で顔を見たと言う事もあって思わず、どもる俺。

そんな俺を見てカグラは端正な顔のまま、笑いを堪えるかのようにクスクスと笑い始めるので、俺は顔を歪ませて言う



「何がおかしいのさ!」

「いやぁ…、わりぃわりぃ…っ」

「…っ」



笑ってるカグラは先程までの近寄りがたい雰囲気のある空気ではなく、楽しそうに笑う同学年の男子に見えて、怒る気力も失ってしまった。

笑っているカグラを見て、ふと気になっている事を尋ねた



「あのさ…」

「んあ?どうした?」

「なんで…彼女と別れてたの?」



尋ねた瞬間、空気が凍った

カグラは笑みを消して同学年の男子という雰囲気ではなく普段の近寄りがたい雰囲気を出して冷たく吐き捨てた



「飽きたから捨てただけだ」

「…え?」

「耳が悪いのか?飽きたから別れただけだけど」

「それ、彼女に言ったの?」

「はあ?言ったに決まってるだろ?」



パァンと二回目の乾いた音が鳴り響いた。音を立てたのは紛れもなく僕だった。

目の前のカグラの頬を力一杯に叩いた、最も俺は男だ。先程の彼女の様に痛くないわけは無いと思う。


俺は今どんな顔をしてるか分からないけど、多分酷い顔をしていると思う。俺はゴミ箱を手に持ち、顔を歪ませたまま目の前で何も言わないカグラに言い捨てた。



「もっと…、人の気持ち考えろっ!」

「…っ!てめぇ!」



カグラの反論を聞く前に俺は軽くなったゴミ箱を持って教室まで全力で走った。ゴミ箱は軽いはずなのに、体はなんだか重たくて嫌な気分だった。






そんなのって、良いわけないじゃん…!