ようやく | ナノ





黒Side



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涯の家について集達の会話を聞き始めて結構な時間が経った


勉強したり遊んだりと
まぁ至って普通に過ごしていた

強いて言うなら夕食の時に、涯の弟が一緒で何故か雰囲気が険悪だったくらいで特に関係無い




時間は21時

涯の部屋で二人きりで課題を進めているようだった


「いい加減フラグ立てろよ…」

何も起きない状況下で僕は一人で苛々としていた



と、なにやら涯が真面目な事を言おうとする雰囲気が流れ―

『集さ…好きな奴居るか?』




「きたこれぇ…!」


思わず集より先に僕が反応してしまった。

これやっぱ集の事好きだろ!
こんなこと聞くなんて好きだろ

僕は高まる興奮を抑えながら、ヘッドホンに全神経を使う


『いきなりなんで聞くの?』
『聞いちゃ悪いか』
『別に良いけどさ…』
『で、どうなんだ?』

『別に…、居ないよ?』





ふざけんな!あの馬鹿!


思わず一人で怒鳴る僕
なんで居ないって言うんだよ!おまえ此処でフラグ立てなきゃ…いつ立てる!馬鹿野郎!



僕は自分の携帯を取り出し通常の三倍の速度で発信履歴から集の名前を見つけて電話を掛ける

ヘッドホン越しの二人の会話が聞こえてくる


『あ…、黒兄ちゃんからだ』
『電話か?』
『うん…、ちょっとごめん』


集が立ちあがり部屋を出て行く様子を感じとりヘッドホンを外して携帯を耳にあてた


「よお」
『いきなり何?』
「告白は出来たか?」


盗聴をしている事は伏せて、今の状況は全く知らないふりをして問う


『無理だよ…。』


知ってるけどな、という言葉は声にせずに集に語りかける



「お前、涯のこと好きなの?」
『すっ、好きだけどっ!』
「なら、どうして…」
『黒兄ちゃんは…』
「あぁ?」


『黒兄ちゃんは、何にも分かってない!』


携帯越しに響いてくる弟の叫び声に驚いたものの、僕は小さなため息を落としてから集に冷たく告げた



「分かってないのは集だろ」
『…っ!』


集が息を飲んだのが伝わる
僕は、そのまま言葉を重ねた



「集…お前は逃げてるだけだ。涯に気持ちを伝えるのが怖いだけなんだろ?」

「いつ告白しようが結果は変わらない…、いや、早く伝えないと絶対後悔するぞ?」

「気持ちは、すぐに変わる」

「燃え盛る炎みたいなもんだ。勢い良く燃えても、時が過ぎれば勝手に消える」




電話越しで黙りこくった集を感じて、少し臭い事を言い過ぎたかと反省する

が、もう一言重ねて言う



「お前と涯は今が一番燃え盛ってる。今、伝えれなきゃ気持ちは変わるかもしれない。…いいのか?それで」

嫌だっ!



再び携帯越しから響いてくる叫び声に僕は小さく笑みを落としてから集にひと押しする



「どーだ、自分の気持ち分かったか?」
『あ…、うんっ!』
「じゃあ、頑張れよ」

『有難うっ、黒兄ちゃん!』



通話を終わり携帯をベットに投げ捨てる。ここまで後押ししたら大丈夫だろう。

ふと、先程まで付けていたヘッドホンが視界に入ったが僕は一人で小さく微笑んでヘッドホンを視界から外してベットに寝転ぶ。…もう結果は見えきっているだろう。






「弟の青春に幸あれってね」

そして僕は長い長い一日を終わったのだ。





( あのさ、涯。聞いて欲しい事があるんだ )