年に数回しか無い、体育祭よりも楽しみな学校イベントである席替え。普段なら俺は祭りの様に喜ぶのだが、今回は言う程嬉しくなかった
今までとは違って
今の席が大好きだからだ、変わってしまうのが本当に惜しいと思っている
今の隣の席の相手…猿比古
猿比古とは最初隣になった時は、正直すげー嫌だった。根暗眼鏡で関わった事も話した事もない奴、だったのだけど…
驚くほどに仲良くなってしまった、俺が一番驚いている位だ。
嫌な奴ではあるけど、なんだかんだ言いつつも俺を助けてくれたり、見守ってくれたり…本当に言いだせば山のようにある
だから、
今日の席替えは凄く嫌だったりする、この席を…猿比古の隣を止めるのは凄く辛い
「美咲美咲、」
「んー?」
先生が熱心に話している途中で猿比古が小声で俺の名前を呼んだ、そういえば名前を呼ばれるのも猿比古だけは別に良いって感じがするようにもなったな。
本当に、変わったな。
猿比古は偉く真剣な目で俺の方を見て来る、…なんか緊張するな。
「今日の席替え嬉しい?」
「あー、…いや。思ったよりも嬉しくねーかな」
俺の答えに猿比古はニヤりと笑う、…相変わらず猿比古の笑みは気持ち悪い。
それに、俺は知ってる
猿比古が君の悪い笑みを浮かべるときは大抵――ろくでもない事を考えている事を
「俺もだよ、美咲。」
そう言って猿比古は先生の方を向く
なんか意味深だったな、とは考えたが深く考えても答えは出ないので俺も先生の話に耳を傾けた
「今回の席替えもクジ引きで行うからな」
そう言って教卓の前に並べと指示をする先生。
もう終わる、
長いようで短かった時間が
楽しかった時間が終わってしまう、そう考えると胸がちくりと痛んだ
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残り物には福がある、なんて言うけどアレは嘘だ。
迷信だ、確実に。
断言できる理由を言えと言うならば、今の状況がまさにそうだった
一番最後に俺が引いたクジは先生から一番見えやすいであろう一番前の席、先生に俺が新しい席に座った瞬間に「八田が今度は此処かー」と楽しそうに言われてしまった。あれはもう俺で遊ぶ気満々の眼だ、最悪すぎる
そしてさらに言うならば、俺の列の一番後ろの席になっていた。席が近くどころか、ものすごく遠くになってしまった…諺なんて迷信なんだな、俺はもう信じない
「この席で大丈夫だな?」
先生が確認を取る
大丈夫なわけがないけど、もう諦める。何を言っても俺は今の席から逃れられそうにないしな。本当に詰んでしまった気がする
先生が意見が無いのを確認して、今の席順で確定しようとした所で俺の真後ろから冷めた声が聞こえて来た
「先生」
「伏見か、どうかしたか!」
聞き慣れた猿比古の声、思わず振り向けば冷たい顔をした猿比古が挙手していた。先生に当てられた猿比古は椅子から立ち上がって、淡々とした声で告げる
「黒板が見えにくいです、前の席にしていただけませんか」
「そうか、それは困ったな…。前の方で代わってやれる奴は居るか?」
先生の質問に俺の隣の席に座っていた無口な女子(正直に言うと俺の苦手なタイプ女子)が、スッと手を伸ばした
「先生、私で良ければ伏見くんと変わります」
「おー、じゃあ代わってやってくれ。他には居ないな?」
沈黙、からの移動
ざわめく教室の中で俺は一人ぽかんとしていた、先生に「早く席を移動させろ」と言われ慌てて今の仮の席を立ちあがる
元の席から新しい席へ移動すれば先生が目の前に居て、そして既に隣に猿比古が居た。
「また一緒だな、美咲」
「……そうだな」
顔には出さない様にしているが、内心では凄く喜んでしまっている自分が居た。また猿比古と暫く近くに居られる、と思うと何故か心臓の脈打つ速度が速くなる
隣に座る猿比古を見れば、顔が赤くなっていくのを感じて…って、嘘だろ…。
猿比古の事が好きになってるなんて認める事は出来なかった、認めると今日から隣の席で授業を受けるのが絶対辛い。そんな気がした、確信的に。
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席替えでは毎回ドキドキのワクワクだったタイプの私です、席替えって体育祭なんかよりも楽しみだった記憶があります。
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