「八田ー、今日お前が掃除当番だからな」
「えー!」
「先週代わってやったろ?じゃ、よろしく!」
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そんなわけで、
箒で床を掃き始める。
ゴミが相当残っている所を見ると当番の奴がサボってたな、許さん。
黙々と箒片手に机を整理する
机を正しい位置に置いて、床を掃いてを繰り返す。
掃除を進めて行くと、銅色をした物体を見つけ手で拾ってみる
…あ、十円発見、ラッキー。
案外落ちてるもんだなぁ……、待てよ。
「もしかして、探せばまだあるんじゃね!?」
思わず一人言を叫ぶ
善は急げだ、探せば金が出てくるのではないかと思い掃除を本気で始める。
整理整理掃く整理
机を整理しつつ(床をガン見して金を探す)箒で床を一生懸命掃く(見落としがないかチェック)と、先程の数倍の速さで綺麗になっていった
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三十分、といったところだろうか。教室全体を綺麗にしつくしていた、ちなみに金は落ちてなかった…畜生。
そうだよな、よくかんがえたら金落ちたら拾うもんな。拾ってない方がおかしいんだ…俺の努力って一体なんだったんだ…。
予想以上に頑張りすぎた、足腰が痛い。
「あーあ、帰るか…。」
完全に心が折れた状態で自分の席まで歩く、狭い教室なのに遠くに感じる…。
脹脛が明日筋肉痛になりそうだ…、引きずるように脚を運んでいると、自分の三つ後ろの席に目線が奪われる
席主は、伏見猿比古。
一見すれば優等生だが、性格が捻じれに捻じれた反抗期の模範生である。
直接的な関わりはない、
しかし、まぁ…なんというか、俺が一方的に好きだったりする。理由なんて無くて、ただ初めて見たときから視線を奪われて…、アレだ、一目惚れと言う奴だ
「……っ、」
あぁもう女々しいな自分
彼の席に、そっと触れて見ると心臓を打つ速度が速くなった。
机と触れている手が熱い、机自体は冷たいのに俺の手が熱を持っていた
誰も居ない教室
うるさい心臓を黙らせて、周りを見渡してみる。
――誰も居ない、な。
誰も居ないことを確認してから、机に乗せてある椅子を降ろして座る。
「……ッぅあー、」
恥ずかしさと嬉しさから変な声が上がる。ただ座っただけなのに心臓は気持ち悪いほどにうるさくて、顔は焼けそうなほどに熱い
これが、アイツの座ってる席
そう考えると余計に恥ずかしくて、でも少しだけ嬉しくなって…、そのまま彼の机に伏せてみる。
やばい、なんかもう…ッ
「ふしみ、」
自然に零れ出る彼の名前
彼の席で彼の目線になって、彼の事を考えると…息も出来ないくらいに苦しい
好き、大好き。
本人を前にすると、言葉にする事なんて出来ないけど…今ならハッキリと言える。
「好き、好きだ…。」
言葉にすれば余計に恥ずかしくなった。
早く帰って、飯食って寝よう、頭の中で考えをまとめて勢い良く伏せていた顔を上げた
なにやってんだか俺は…、本当馬鹿みた――
「人の席で何してんの?…八田、美咲。」
「…ッ、」
教室の扉の方から声が飛んできて心臓が跳ね上がる。
いや違う、声が飛んできたからじゃない。
一番好きな声で、今は一番聞きたくない彼の声だったからだ。
ゆっくりと扉の方へ視線を移動してみれば、そこにはいつも目で追っていた彼が居て…俺は彼の名前を呟いた
「――…っふし、み。」
「質問に答えろよ、人の席でなにやってんだよ。」
「その…っ、えっと、」
伏見は扉に寄りかかって俺を射るように見ていた。
一部始終見ていた、
と言う彼の様子に、どうしていいのか分からなくなる。
上手い良い訳が見つからなくて、何も言えない。
俺が情けなく黙っていると、伏見はチッと舌打ちをして教室の中へと足を踏み入れて此方に向かって来る。
逃げようにも足が竦んで動けない。
あぁ、短い恋愛だったなあ
と、走馬灯のように考え始める。別に死ぬわけではないが、完全に伏見には嫌われてしまったな、どうしようか。
カツカツと近づいて来る足音に、先程とは違う意味で息が苦しくなる。
カツン、と俺の目の前で足音が止まる。何を言われるんだろう、と考えれる限りの罵声を考えて…泣きそうになる。
「……その、」
「俺のこと、好きなんだぁ?」
からかうように言って来る伏見、こうなったら俺だって自棄だ。
どうとでもなってしまえ!
「好きだよっ!」
ハッキリと、堂々と、
立ち上がって伏見を見上げるようにして、伏見の眼を見て告げてやれば、伏見は少しだけ驚いたような顔をする
終わった、
八田美咲の人生が中学三年生と言う短い期間で終わってしまった
「……」
何かを思案するような伏見の顔、こんな時までカッコいいと思ってしまう俺は重症なのかもしれない。
沈黙、無言空間
数秒が何年にも感じれた、こんなに重たい沈黙は初めてだ。俺から口を開くべきかと思い、何を言おうか考えている所で伏見は言った
「ばーか、」
「…はぁ?なんで急に――むぐっ、」
そんなこと言うんだよ
と続けようとしたが、それは伏見によって阻止されてしまう
引き寄せられて唇を彼の唇で塞がれてしまい、状況の把握が出来なくなる
なんで、
なんで俺は伏見に、
そんな思考を溶かすかのように伏見の口付けが熱くて、骨の髄まで解かされていくように強く強く繋がっていく
酸素なんて気にならない程に
熱くて、ぐちゃぐちゃに壊していくようなキスを続けられる
「……っ、ふぁ、」
鼻から抜けた自分の声に
自分の体が熱帯びて行く感覚がハッキリと分かる。
どれくらいたったのだろう、不意に離れる伏見。名残惜しそうに繋がる銀の糸を見れば、自分と伏見がキスしていたんだと実感する
「――っ、」
「ど、気持ち良かった?美咲ちゃん、」
それだけ告げて先程と同じルートを辿って教室から出て行く伏見。
俺はというと、体に残った熱が未だに抜けず、出て行く伏見を追いかける事も出来ないまま呆然としていた
−−−
このままだと年齢指定に入りそうなので打ち切って終わりました、八田ちゃん乙女化とか好きです可愛い
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