「…どうしてもヘッドフォンにすんの?」
「……はぁ?」
猿比古と家電量販店に行った時の事だ。
イヤホンからヘッドフォンに変えようと思って、ヘッドフォンを吟味している所で一緒に来ていた猿比古に不服そうな顔をされた。今日はヘッドフォンを買うと予め言っておいたはずなのに…何言ってんだ?
「イヤホンにしろよ、」
「今日はヘッドフォン買いに来たんだっつの!イヤホン買ったら意味ねーだろ、」
何しにここまで来たんだよ。イヤホン買ったら、わざわざ此処まで買いに来た意味がねえだろ…
俺が手に取っていたヘッドフォンを猿比古は嫌そうに見る…嫌なら理由を言え、理由を
「ヘッドフォンにしたらさぁ」
本当に理由を言ってくれるみたいだ、珍しい。性格がひん曲がっている猿比古の事だから言わないと思ってた、予想外だ。
猿比古が真面目に話をするなら、俺も真面目に話を聞いてやろう
「なんだよ?」
「ヘッドフォンにしたら、美咲と半分こ出来ない」
「……、はぁッ!?」
自分で買えよ、自分で!
猿比古はムスっとした顔のまま言葉を続ける。
「美咲と聞きたい」
「――は、」
「美咲と一緒に同じ曲を同じ時間に同じ瞬間に聞きたいから、イヤホンにしろよ」
真面目な顔に真面目な声色でハッキリと告げる猿比古。…ふ、不覚にもカッコいいとか思っちまったじゃねえか。…なんか悔しい、猿比古に顔を赤くさせられている事実が悔しい。熱い顔を隠すように下を俯きながらヘッドフォンを棚に戻す。
ちらりと猿比古の顔を盗み見てみれば、不機嫌そうな顔から普段通りの無表情に戻っていた。俺だけ赤くなっているのが癪に障る。
「で、どれにする?」
「っ!お、お前ッ…、お前も一緒に使うんだから半分払え!」
「別に良いけど。…俺が半分払うんだから、一緒に聞かせろよ?」
良いよな?と釘を刺すように猿比古に問われ、俺は勢いで、おう!簡単に返事をする。
…あれ、やっちまった?俺、なんか簡単に返事をしたらいけない所で簡単に返事をした気がすんだけど。気のせいだよな…?
これで猿比古が俺と一緒に聞く事を肯定した気がするんだけど、気のせ…いや気のせいじゃねえ!熱くなった顔が一瞬で冷たくなっていく気がした、
「あの、さるひこ…」
「どのイヤホンが良い?…今更になって、割り勘やめるとか言いださねえよなあ?美咲ぃ」
「…モ、モチロン!」
エセ中国人の様な口調で猿比古に告げれば、猿比古は心底楽しそうに顔を歪める。猿比古の顔を見てみれば、先程の無表情とは打って変わって今の状況を楽しんでいる歪んだ笑みを浮かべていた。…さっきのは幻覚か、俺の作りだした妄想でしたか
断る事は不可能のようなので、どうせなら高い奴を買ってやろう。割り勘だからな、そこそこの値段の物が買えるだろ。
「どれが良い?美咲、」
「今使ってんのと同じメーカーの奴だったら何でも!」
そう言って俺は、ヘッドフォンの所からイヤホンのコーナーへと脚を運んだ。
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この辺で一番大きな家電量販店へ一人で来ていた、イヤホンが壊れたのだ…いや少し言い方が違うな。俺が自分の手で壊した、アイツとの思い出の品だったから
しかし音楽が聴けないのは寂しいので、イヤホンを求めて此処まで来ていた。
「はー、やっぱヘッドフォンは少し高えよな…」
前々からの憧れであったヘッドフォンを手に取るが、イヤホンよりも値段が高い。今月は厳しいし、諦めてしまおうと考えた所で、ふと懐かしい記憶が呼び覚まされる
『イヤホンにしろよ、』
忌々しい、殺してしまいたいほどに憎いアイツの声が聞こえてくる。勢い良く振りむいて見るが、後ろには誰も居ない。店員が不思議そうに俺を見て来る、
あぁ思い出した、あのイヤホンを買った日の事だ。
アイツが…、猿比古がヘッドフォンを買おうとしていた俺を止めたんだ。確か理由は…、
『美咲と一緒に同じ曲を同じ時間に同じ瞬間に聞きたいから』
「……死ねッ、」
再度聞こえて来た幻聴に暴言で返す、俺は棚に戻しかけたヘッドフォンを手にとってレジへと足を運んでいく。店員が怪しそうに俺を見た後に、会計を始める
お前が居ないんじゃ、一緒に聞く事なんて出来ねえだろ。ばーか、
両側に防壁を建てて
お前が居ないから俺は一人で聞いてやるよ
−−−
猿美で過去から現代へ
イヤホンネタは書きつくされてる感じがして、どうにかして逆転の発想が出来ないかを試行錯誤した結果がコレ。どうしてこうなった、
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