「八田さんっ!」
「…っんだよ、鎌本ぉ!」
鎌本の焦った声が廃倉庫内に響き渡る
目の前の敵に打撃を打ちこんで鎌本の方へ振り返ってみれば、大柄な男がバットを持って俺を目掛けて大きく振りかぶっていた
「――ッ、」
目の前の光景に息を飲む
あまりの驚きに思考判断が一瞬鈍り、回避するのが遅れる
「死ね、糞餓鬼。」
無慈悲な声が嫌というほどに廃工場内へ響いた
−−−
気付けば俺は病院に居た。
ズキズキと痛む頭で今に至る経緯を思い出そうとすれば、思考を遮るかのように病室の扉が勢い良く開かれた
「八田ちゃん!」
「えっと――、草薙さん…?」
ガラガラと荒々しく音を立てて病室に入ってきたのは草薙さん達だった、病院内ではお静かに
草薙さんは肩で息をしながら俺の方に近寄って来たかと思えば、カウンターを傷つけた時の比ではない程の恐ろしい顔で怒鳴る
「…っ、この馬鹿!」
「え、えぇっと…、あのー、」
今の現状についていけない俺は草薙さんの発言になんて返したらいいのか分からない
確か、今日は……、廃工場で吠舞羅を目の敵にしてる奴が集まってるって情報を聞いたから、鎌本と俺が主軸となって戦ってたんだ。確か、
それから…?
それからどうなったんだっけ、思い出したいのに上手く思い出せない。頭を強く打ったような気がするが、どういう状況だったかまで思い出せない
「あ、あのー…、俺ってどうして病院に――」
思い切って草薙さん達に聞いてみれば、お互いに目を見合わせてから俺に向かって訝しげな視線を向ける。いや、記憶喪失とかじゃないんで大丈夫っすよ
俺の問い掛けに、俺と一緒に居た鎌本が見舞いの品を片手に語り始めた
「八田さんが倒したと思ってた奴が意識持ってたんすよ。そんで、そいつが八田さんの後ろに回り込んで、八田さんの頭をバットでこう…」
「もういい、分かった」
思い出したから、これ以上は言わなくて良い。
そうだ、鎌本の叫び声で振り返ったら大型の男がバット持ってて立ってて…思いっきり殴られたんだよな。思い出した思い出した、よく生きてたな俺。
俺が一人で納得していると、病室の扉付近に佇んでいた尊さんが俺の方へ向かってくる。…失敗したから怒られるのかと思い、思わず体が硬直する
「八田、」
「みみみ尊さん!すんません、俺っ、」
先に謝ってしまえと思い、ベットの上で上半身を折れるだけ折り謝ってみるが、尊さんからの反応は何もない…やべえ、俺今度こそ死んだ?
一人でパニックに陥っていれば、尊さんは俺の予想とは全く違う言葉を吐き出した
「寝とけ、後は俺がやっとく」
「…え、尊さん?それって、どういう――」
尊さんの言葉に戸惑いを隠せないでいると、尊さんの代わりに草薙さんの方から俺の言葉に対する返事が返ってくる
「八田ちゃん。後は俺等に任せとき?」
「あ、あの…」
「鎌本は八田ちゃん見張といてなぁ、ほんじゃあ。行こか」
俺の言葉の半分以上も無視して病室から出て行く草薙さんに尊さん。ちょっと待ってください、俺の話も聞いてください
病室に残ったのは鎌本だけで、鎌本に視線で助けを求めてみれば鎌本は少し困ったように目を伏せて俺に微笑んだ
「みんな、八田さんの事が大切なんすよ。」
そんな鎌本の言葉に思わず目頭がじんわりと熱くなる。思わず泣きそうになるのを必死で我慢して、布団に潜り込む。鎌本に泣き顔見せるなんて絶対に嫌だしな、
布団に潜れば、体が疲れを残しているのか、ゆっくりと瞼が重くなってくる。
尊さんに寝てろと言われたし、寝て良いよな?うん、寝よう。
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「…八田さん?」
すうすうと小さな寝息が聞こえてくる。この様子だと寝てしまったみたいだ、無理はない。あんな大怪我をして元気に喋っている方が不可能だろう
八田さんが眠っている間に、後始末に行った二人の事を考えてみる。きっと、あの二人は本気で殺す気で行くだろう。八田さんが病院に入ったという時には、俺が殺されそうになった位だしな。
「大丈夫っすかねえ…、草薙さん達は。」
あんまりやり過ぎてないといいんすけど。
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「ヒィ…ッ、」
情けない男の声が上がる。俺と尊の二人で敵陣に乗り込んだんはええけど、八田ちゃんに大怪我食らわしてくれた男が見つからんで困った。
人数はざっと二十人弱、この程度やったら俺と尊で十分やけど、まずは八田ちゃん傷つけた奴にキツーく仕置きせなあかん。どないしよか
「尊ー?どないすんねん、見つからへんで。」
「……聞いてみろ」
それを俺にさすんかいな。
まぁええけど、うちのキングは口下手やからしゃーない。
二十人弱全員に響き渡る様に大声出すんて、何気にキツいことなんやけど…まぁ八田ちゃんの為ならええか。
「こん中で、吠舞羅の八咫烏を殴った奴でてきぃー!」
廃工場に自分の声が響き渡るんは地味に恥ずかしいんやけど、どないしてくれんねん尊。
俺の質問に工場内がザワつく、…よお考えたら、これで出てきてくれる様なひとなんやろか?普通に考えたら、出てこん気ぃすんやけど…出て来んかったら尊に次はやらせたろ。
そんな俺の心配を他所に、廃工場内に元気のえぇ声が響き渡る
「俺だよ、俺!吠舞羅の八咫烏に一発かましたのは!」
まさか、ほんまに出てくるとは思って無かったわ。でもまぁ、本人がそうやってゆうてるんやったら、人違いって事もないやろ。
此処は俺がキツーく言ったろ、と思っていたのに、俺より先に尊が男の前まで行っていた。…ええとこ取りすんなや、
「…お前か?」
「そうっすよ、俺っすよ!」
「そうか、」
なら、燃えろ。
尊が冷たく言い放つと同時に燃える男の体。…御愁傷様やな、王様の琴線に触れてしもたなぁ。
これで後始末は終わったんやし、帰ってもええんやけど……、どうにも相手さんも簡単に返してくれる気はないようで。
尊は尊で臨戦態勢に入ってしもうて…、しゃあないなあ。こうなったら全滅させて帰るしかないやん、
「――ふ、ははっ!」
「……、大丈夫か?頭でも打ったか」
「打ってへんわ。ほら、敵さんが来るで?」
口動かす暇あるなら手ぇ動かし、と尊に言っておけば尊は渋々と言った様子で敵さんを薙ぎ払う。
さっさと終わらせて八田ちゃんの所帰ったろ。
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「……っあー、」
目が覚めると目の前には吠舞羅のメンバーが総結集していた、思わず目を丸くしてしまう。
ズキズキと痛む頭と体を酷使して上半身を起こせば、周りから歓声が溢れる。…どういうことだ、なんか皆テンション高え!ちょ、え、どうした!?
「八田さんが起きたぞ!」
「…なんでそんなにテンション高えんだよ、鎌本ぉ」
「いや、だって…八田さんが目を覚ましたんで」
「そんな騒ぐほどの事じゃねえよ!」
俺の言葉は皆に全く響いていないようで、俺を置いて騒いでいる。…病院内では静かに。
と、そこでベット脇にアンナが駆け寄ってくる。安奈は普段と同じ感情の伺えない瞳で俺を見つめたかと思えば、フッと笑みを浮かべた。
「元気、でた?」
「ん…?あぁ、元気だぜ!心配してくれたのか?」
「……うん、」
頬を少しだけ赤くして言うアンナ…、アンナは可愛いなぁと思わず口元がニヤけてしまう。別にロリコンというわけではないが、そこだけは強く否定しておく。
アンナと一緒に騒いでいる皆を見つめる。尊さんは外で煙草でも吸っているんだろうか?この場には居なかった、草薙さんは自前の酒を注いで飲んでいる…此処は病院っすよ。
皆の行動に思わずくすくすと笑いが零れる、やっぱ良いチームに入ったなと改めて実感した。
「ありがとな、みんな」
わけもなく泣きたくなった
それはきっと、皆の優しさに触れたから
−−−−−
美咲総受け…?最終的に迷走しました!ごめんなさい!
美咲が吠舞羅を大切にしているように、吠舞羅の方も美咲を大切にしてると良いなあって言う感じです。補足失礼、
エン様へ/三万打リク作品
吠舞羅メンバー…っていうか尊さんと草薙さんの二人がキレました、キレてるんです。一応←
美咲受けになっていたかと言われると微妙なのですが…、喜んでいただけると幸いです。
三万打企画への参加、ありがとうございました!また縁がありましたら、是非ご参加ください(*´ω`*)
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