キングは寂しいの?
面と向かって彼に聞いてみれば、彼は呆れたように溜息を落として俺の言葉を無視した
キングに無視をされるのは慣れっこの筈なのに、今回だけは無性に答えが欲しくなり更に質問を投げてみる
「ねえ、キングってば」
しつこく食い下がってみるも、キングは宙を見て煙草をふかし続ける
あくまでも無視を決め込むキングに、俺はキングの座っているソファーに座ってみる
「無視は良くない!」
わざわざ隣に座ってみたというのにキングはまるで気にしていないかのように気だるげに言葉を投げて来る
「…うっせえ」
「じゃあ、静かにしてたら教えてくれる?」
嫌だ、と一言だけキングからの言葉が返ってくる
…どうしてこうキングは俺の質問に答えてくれないんだろう、別段おかしな事を聞いているわけではないと言うのに。
そんな俺の心を読んだかのように、カウンターで仕込みをしている草薙さんから声が飛んでくる
「あんま遊んだらあかんでぇ−?ほどほどに、な。」
遊んでいるつもりはないのに。どこをどう見たら遊んでいるように見えるんだろう?
しかし草薙さんから注意を食らってしまった以上、キングに聞くことが難しくなってしまった
どうやってキングに聞こうか頭を悩ませていれば、思いもよらぬ方向からヒントが飛んでくる
「そんなに聞きたいなら、取引でも持ちかけたらどうですか」
「…伏見?珍しいな、君から俺に話しかけてくるなんて」
ヒントを投げかけて来たのは珍しく一人でバーに佇んでいた伏見だった。
八田と一緒じゃないのにバーに来ているなんて珍しい、それに伏見の方から俺に話しかけてくるのは更に珍しい
伏見はソファーの肘置きの近くに立って、八田と居る時とは明らかに違う感情の一歳籠っていない瞳で俺とキングを見る
「…飽きないっすね」
「へ?なにが、」
「別に。…美咲居ないなら俺は帰ります」
「あ、ちょっと!」
俺達から背を向けて立ち去ろうとする伏見と止めれば、心底嫌そうな顔をした伏見が顔だけを此方に向ける。…そんなに睨まないで欲しいな
「…なんですか、十束さん」
「取引って、具体的にはどんなの?」
そんなこと聞くなよ、と顔に書いてある伏見。もうちょっと俺と会話してくれても良いのに…本当に伏見は八田以外には心を開かないな
伏見は俺…というよりはキングの方を、じっと見たかと思いきや意地の悪い笑みを浮かべる。何か考え付いたのだろうか?
「そうですね…、例えば答えて貰いたいなら誠意を見せれば良いんじゃないですか?」
「誠意…誠意ってどうやって見せるものなの?」
「例えば、答えてくれるならキスする。とかね」
その言葉に俺ではなくキングと草薙さんが反応する。キングは宙を見つめていたのに伏見へと視線を移し、草薙さんは磨いていたグラスを落としそうになっている。
キング達は置いておいて、キスをすれば答えて貰えるのだろうか?
「じゃ、俺は美咲探して来るんで」
「あ、うん!ありがとねー」
最終的にはやけに機嫌が良くなった伏見、彼の考えている事は読みにくい。
それはそうと、キングの方を見てみればキングは困ったような顔をする。…とりあえず、聞いていたとは思うけど、今しがた伏見が言った案を提案してみる
「ねえ、キング」
「キスは要らねえからな」
「えぇー、じゃあ…どうやったら答えてくれるのさ」
結局話が振り出しに戻ってしまう、キングの意地悪。
俺が一人でムスっとむくれていると、キングは見かねたかのように深いため息を落として煙草を灰皿に押し付ける。
「…俺が、寂しいのかだっけ?」
「…!!答えてくれるの?」
「はぁ…、どっかの馬鹿がしつこいからな」
キスするという話は案外効果があったみたいだ、ありがとう伏見。今度なんか奢ってあげよう、きっと要らないって言うけど。
俺がキングの方へと向き直って話を聞く体制に入れば、キングは実に面倒くさそうに一言だけ言った
「お前が、居るだろ。」
その一言で俺は、柄にもなく赤面させられてしまう。
キングは特にどうでも良さそうに宙を見る…やっぱりキングはずるい。なんか今考えると全部嵌められてた気がしてきた、気のせいかもしれないけど。
「…うー、」
食えないキングは放置して寝てやる。
俺は元々自分が居たソファーに戻って寝転がる、キングからの視線が痛いけど気にしなかったいい。とりあえず、顔の赤みが引くまで俺は寝るから!
魔性の男
それってキングの事だよね
―――――
最初に考えていたものから迷走に迷走を重ねた結果、こんな事に。
自分のペースを崩される多々良さん、尊さんは天然でも崩せるし考えても崩せそうなイメージ。
伏見と草薙さんは傍観者。楽しんでそう、特に前者の方
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