Don't forget me. | ナノ



転生/地味にカシアリ多


「絶対…っ、絶対に俺は…、お前の事を忘れない!」

『じゃあ、約束だ。』



−−−


「起きろ、馬鹿。」

「うぐっ…っ!痛てーじゃねえか!」


心地の良いまどろみから裸拳で目覚めさせてくれたのは同居人のカシムだった。

セットが面倒そうな髪型に制服を着て煙草を咥えている。未成年の癖に何やってんだよと小言を言うのも最早何度目か分からないので心の中で言っておく


「飯は出来てっから、さっさと着替えて――、…アリババ?お前、」

「なっ、なんだよ。急に…」

「おまえ、ソレどうした?」


それ?と言われても心当たりとなるものがない。
手探りで体を探ってみても特に変わったところはない。

カシムの言っている事が理解出来ずにいれば、カシムは戸惑いつつ俺の頬へと手を伸ばした


「泣いてんじゃねえか、」

「…へ?嘘だろ――。」


慌てて目元を袖で擦ってみれば、じんわりと湿っている袖口。
途端に俺の目からは涙がボロボロと流れ出し、止めようとすればするほどに涙が溢れた。

俺のそんな姿にカシムは心配そうに顔を覗き込んで来る


「何かあった…のか?アリババ…、おいっ!」

「いや、これは――、自分でも…分かんねえんだ……っ。」

「――――アリババっ!」


涙を流し続ける俺をカシムが抱きしめる。
男の堅い胸板に顔を押し付けられ、意味も分からず涙をただただ流し続ける。

カシムは何も言わずに子供をあやすように背中をとんとんと叩いてくる。
数分ほど俺は泣き続けて、カシムから身を離した。


「…ごめん、」

「なに謝ってんだよ」

「いや、だって…、おかしいじゃねえか――俺。」


意味もないままに泣き続けるなんて我ながらに異常だ。
そんな異常な俺をカシムはなんと思ったのか不安で、勝手に口から謝罪の言葉が零れ落ちた。

カシムは俺の心情を汲み取る様に目を覗き込んでから、溜息を一つ落として言う。


「そんな事気にしねえよ、俺とお前の仲だろ?――ま、気持ちの整理が出来たら教えろよ」


頭をくしゃりと撫でて部屋から出て行くカシム。
ほんと、馬鹿の癖に気の使い方が上手くて……こっちが逆に辛くなる。

まだ微かに残っているカシムの体温に、ふと気付いた事がある。


「…あれ、」


前にも誰かに抱きしめられた事がある気がする。俺は今みたいに泣いてて、誰かが優しく抱きしめてくれた…ようなことがあった気がする。
こういうのをなんと言えばいいのか…、既視感という奴か。


「……疲れてんのかな、俺。」


特に気に留める事はせずに軽く一人ごとを呟いてから、制服に着替えるために寝巻きを脱いだ。
素肌が晒されれば肌寒い時期のため、さっさと着替えて部屋を後にする。

そのまま味のしない朝食を食べて、荷物を持ちカシムと共に家を出る。
一足先に外に出て、自転車に乗って俺を待つカシムに「わりぃ」と一言告げて後ろに乗る

カシムは煙草を携帯灰皿に入れて、ペダルを踏み込んだ。





- - - - -






「あー、こりゃホームルームには遅れたな」


二人乗りのまま自転車置き場まで着いたところでカシムが呟いた。
ホームルームの始まる時間は八時四十分、そして現在の時間は八時三十八分。

流石に二分で教室まで行くことは不可能だった


「まぁ、ゆっくり行こーぜ」


たいして焦っていないカシムに思わず苦笑が漏れる。
二人並んで校舎内へと進んでいき、下駄箱で丁度ホームルーム開始のチャイムが鳴り響いた


「…鳴ったな」

「…鳴ったねえ、」


特に気にすること無く教室へ向かう。
二年生は二階なので長ったらしい階段を一段ずつゆっくり登って行き、二年のフロアに出る。
どのクラスもホームルームの最中なので、廊下には誰も居なかった。

と、そこで前を歩いていたカシムが唐突に振り返ったかと思えば、俺の不意を突いて額に勢い良く攻撃をする。…要はデコピンをしてくる、


「いでぇ!」

「ははっ、だっせぇ顔!」

「うっせぇ!いきなり攻撃してくるなんて卑怯じゃねえかーっ!」


くつくつと笑うカシムに対して「なに笑ってんだよ!」と追求しようとした所で俺達のクラスから見慣れた顔の先生が…、っていうか担任が教室から顔を出してきて一言。


「遅刻の上に騒ぎおって…、反省文でも書くか?あぁ?」

「えっ、ちょっ…!」

「センセー、僕は騒いでないです。アリババくんが一人で騒いでるだけでーす」

「おまっ、カシムゥ!?」


思いもよらぬ裏切りに焦り戸惑う俺と一切表情を変えていないカシム。…覚えてろ、いつか仕返しすっからな。

先生が呆れたように溜息をついて教室に入れと誘導する。
カシムへの復讐方法を考えつつ教室の扉の前まで歩いた所でカシムが小さな声で囁いた


「―少しは気ぃ紛れたか?」

「――っ」


思わず変な声が出そうになるのを我慢して、精一杯の感謝と嫌味を込めて「ばーか」と一言返しておく


「「失礼しまーす」」

「本当に失礼な奴らだな…、早く座れ。――えー、先程言いましたように今日から転校生が入ります。」


教室が僅かに賑わうのを感じつつ席に付いた。
俺は一番後ろの左端、カシムは俺の斜め右前に座る

正直転校生なんて興味が無いのでポケットから出した携帯を弄って遊ぶ


「ったく…。えー、入って来なさい」


あれ、さっき廊下に居た時は誰もいなかったよな…?
あぁ…廊下の突き当たりの曲がり角に居たのかと自分で納得する。

ガラガラと開かれる扉のと同時に湧きあがるのは女子の黄色い歓声。
ちょっとだけ視線を上にあげてみると、整復は明らかに男子の物で、転校生への興味が完全に消え失せる。

携帯をカチカチを弄りながら話だけをボーっと聞く。


「自己紹介をしてくれるか?」

「――はい。えぇっと、どもっす…」

「―…っ!?」


男の声を聞いた瞬間に体が硬直した。
携帯を閉じて、俯いていた顔を上げれば引き締まった体に小さい顔。モデルでもやっていそうな風貌な男子生徒が居た。

俺は理由も分からないのに嫌な汗が吹き出し、目眩が襲ってくる


「…っは、」


やべえ、呼吸も上手く出来ねえ。これってかなりヤバい気がすんだけど…。

頼りの綱のカシムも前を向いて…いるわけではなく俯いて携帯に夢中になっており此方に気付く気配はない。

本格的に意識が無くなりそうになっていく中でも転校生の紹介は耳に入ってくる


「あー、ジュダルです。まぁ、一応よろしく、」

「…じゅだ、る。」


頭が、痛い。
転校生の男の名前を呟けば、体中から力が抜けて行くのが感じれた


「――アリババっ!?」


カシムが近寄って来る。
わりぃ、なんか俺…おかしい。と一言絞り出して意識を手放した。



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