気付かない振りをしていた | ナノ




「みさきぃ、」
「……」
「返事しろよ、みーさきちゃん。」
 

くつくつと笑いながら名前を呼んでくる猿比古に対して、美咲は普段とは違って冷静に対応していた

普段ならば猿比古にからかわれると激昂し、すぐにでも喧嘩という乱闘を繰り返すのだが今日に限って美咲は冷静だった。

猿比古も徐々に普段とは違う美咲の様子に違和感を感じたのか、にやけを帯びた顔から笑みをフッと消し去り美咲に近づく。


「おい…、美咲?」
「俺さー、気付いちまったんだよ」


唐突に語りだす美咲に猿比古は警戒心を露にする。おかしい、普段の美咲とは何かが決定的に違う。と猿比古は頭の中で考える。そして嫌な予感もする、この先の言葉は言わせてはいけない。そう自分の中の何かが告げている。

美咲は猿比古の様子を気にもしない様子を続ける。


「俺ってさ…お前みたいに頭良くねぇけどさ、最近気付いたんだ。」
「――やめろ、」
「お前って、本当は、」

「言うなっ!」

猿比古にしては珍しく声を張り上げて叫ぶ。感情を露にして、更に美咲に対して怒鳴る。

それでも美咲は、余裕に満ちた笑みを浮かべて――






「――っ、」


ズキズキと痛む頭を抱えて猿比古は上半身を勢いよく起こした。未だにハッキリと機能しない頭に乱れた息に、自分の事ながらに状況がつかめていなかった。

隣で規則正しい息遣いで眠っているのは、小さな体をした紛れもない美咲自身だった。猿比古は美咲の鼻を試しに摘まんでみる

かちり、かちり。
時計の針の音が聞こえる。次第に心地良さそうに眠っていた美咲の顔は歪められて行き、最終的には――


「…ぷはっ!ゲホッゴホッ……何すんだよクソ猿!殺す気か!」


激しく咳込み目に涙を溜めている。それは明らかに猿比古の行動に目くじらを立てる普段の美咲で、先程の彼は今になってようやく夢なんだと猿比古は実感できた。

猿比古は美咲の声に普段とは打って変わって苦しそうに顔を歪め、美咲の小さな体を抱きしめた。


「ばっ…何すんだよ!朝から盛ってんなよ、この変態!」
「……美咲ぃ…、美咲美咲美咲っ。美咲だ、本物の美咲だなぁ、」
「……猿?お前、何が、」


猿比古の異変に気付いた美咲は首を傾げ、抱きしめ返してみる。普段なら何らかのアクションを起こすはずの猿比古が只管に抱きしめる力を強めるだけで、鈍感な美咲も勘付き何も言わないまま抱きしめ返す力を強くした。

猿比古は、じんわりと目を潤ませた。この角度からでは美咲には視えないと踏んでの行動だった。美咲も、長年の付き合いから猿比古の今の状況くらいは分かっていたが気付かない振りをした。




気付かない振りをしていた
『お前って本当は――、自分を知られるのが怖いだけなんだろ?だから、いつもヘラヘラ笑ってんだよな、猿比古。』



***


精神的には美猿になってしまった…、どうしてこうなった!

実はメンタル面が弱い猿比古を書きたかった。そうです、それだけなんです。


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