勉強なんて | ナノ



偉そうな態度のアイツが大嫌いだった。ルックスも良くて性格も顔も良くてカリスマ性とやらも持ち得ている。全部持っているアイツが嫌いだった。けど、こんなのは嫉妬だって言うことも分かってる、それでも僕はアイツが大嫌いだ。

―――大嫌い、なのに。



カリカリとシャーペンとプリントがぶつかり合う音がした。実は僕はその音が好きだったりする

少しだけ自分がたてた音の余韻に浸っている所でガチャリと扉の開く音がして頭上から声が降り注ぐ


「なにをしてるんだ、集?」
「涯には関係ないじゃんか」
「此処は俺の家のはずだ」
「勉強を教えて貰いに来た」


本当は会いに来たんだけど

そんなのは恥ずかしくて口が裂けても言えないし言う気もないけど
頭上からハァと深いため息が聞こえるけど僕は聞こえないふりをして涯に聞く


「ねぇ、教えてよ?」
「めんどくさいな、忙しい」
「そっか…そうだよね。」


予想はしてたけど実際に本人から直接言われると少しだけ寂しい。涯に断られたとはいえ、この難しい課題は消えるはずもないので頭の良い人に教えてもらうしかない…それも断る事がない人に。大人で頭の良くて優しい(もしくは優しそう)な人物…あぁ!


「四分儀さんが居るじゃん!」


頭で考えていたことが呟きとして口からこぼれてしまったが…これは中々良い案だと自分でも思う。
そうと決まったら早く四分儀さんの所に行かないと日が暮れる可能性もあるので早く移動を――

と、そこで先程まで機械と睨めっこをしていた涯が僕の目の前にいきなり来た


「どうしたの?」
「四分儀の所に行くのか」
「え、まぁ…そうだけど?」

「俺が教えてやる」

「え?でもさっき忙しいって…」
「教えてやると言っている」


先ほどとは正反対の事を言い始め戸惑いこそ隠せなかったけど、教えてやると言ってくれているのでありがたく教えて貰う事にする

テーブルに課題プリントを広げて僕の目の前にいる涯に見せると、涯はいつものように全て見透かしたように鼻でフッと笑う。その余裕な笑みを見て僕は少しイラっときたので嫌味のつもりで言う


「何に笑ってんだよ?」
「こんなのに困ってるのか」
「はぁ?涯は分かってんの?」

「当たり前だ…こんな問題すぐ解ける」


そう言いきると学校の先生なんかよりも巧く的確に要点のみを解説付きで答えを教えてくれて次々と先程まで空白ばっかりだったプリントは文字がこれでもかと言うほどに書き込まれ僅か30分足らずで全ての回答が埋まっていた。改めて涯の凄さを目の前で思い知らされた気がする…これで同い年なんて本当に信じられない。


「あ…ありがとう!」
「このくらい自分で解け」
「うっ…分かってるよ!」


素直にお礼を言いたかっただけなのに,こんな態度を取ってしまう僕は本当に馬鹿だと思う。

用件も済んだので涯の部屋から早足で出て行く。流石にこれ以上涯の邪魔を邪魔する事は出来ないし、邪魔になりたくないと思う


「ありがとう、助かった!」
「帰るのか?」
「流石に帰るよ、悪いし」
「…そうか、気をつけろよ」
「う、うん!」


まさか涯がそんな言葉をかけてくれるとは思って無かったので意味もなく照れ、玄関の方に足を進める。靴を履き、玄関の扉を開けた所で部屋に居る涯の声が玄関まで響いてきた。


「集!」
「…?、どうかしたー?」

「もっと素直になれよ」


聞いた直後こそ意味が分からなかったけど少し考えると涯の言いたい事が理解できて顔が熱くなるのが分かる。つまり涯は最初から全部知ってたんだろう…、僕が此処に来た理由も全部最初から


「馬鹿…。」




偉そうなアイツが大嫌い。
でもそんな偉そうな所まで好きと思う自分は涯に惚れてるんだと思う






(会いに来たなんて言ってやんない)
(素直に会いに来たと言えば良いのに)


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