コンコン、と軽い音が鳴る
俺は先日と同じ様にハーイと返事をすれば同じように扉が音を立てて開いた
「やあ、雁夜」
「よお、時お…み…。――と、誰だそいつは」
扉の向こうから出て来たのは趣味の悪い赤色のカーディガンを着た時臣に、時臣よりも背が高く体つきもしっかりしていて――しかし、どことなく品のある男が後ろに立っていた。
俺は時臣や綺礼と違って部活に入っていないので他学年に交流を持っているわけではないので、見知らぬ男が病室に来ていると言う事自体が違和感の塊だった
「そう構えないで雁夜。彼は私たちの後輩のランスロット、今日は雁夜に用事があるらしい」
「いきなり訪問して申し訳ないと思ってます、先輩」
「え、あ…えっとー」
大体の理由や状況は分かったが、理解するのが難しかった。
とりあえず飛田の所に居られるのもアレなので部屋に入るように言う。先日と同じ様にベット脇の折りたたみ椅子を二つ開いて二人とも椅子に腰かけた。
俺が何を話せばいいのか分からないで居ると、時臣が珍しく空気を読んだ
「とりあえず…、私がお茶でも入れようか?」
「お前の茶は絶対にいらん」
「えー」
「えー、とか言うなよ!仮にも坊ちゃんなんだろ!」
先日の時臣の入れたアレは…お茶とは言わないと思う。と付け加えれば苦笑いで返されてしまった。
仕方が無いので自分で入れようと思ったところで時臣では無い声が飛んできた。
「差し出がましいですが…、私が淹れましょうか?」
「お前…出来るの?」
「遠坂先輩よりは美味しいのを淹れる自信があります」
彼の口ぶりからして時臣のアレを飲んだのだろうか?時臣には任せられないし、自分でいれるのも正直面倒なので彼に頼んでみる。
湯を沸かして茶葉を急須に入れる普通の動作が何故か品がある。彼の動作の一つ一つが芸術のように美しく…思わず見とれてしまった。
「お口に合えば良いのですが…、どうぞ」
湯呑を目の前に差し出される。先日の時臣から受けたトラウマのせいか少し躊躇う。少し緊張しつつも、湯のみを見つめ少し覚まして――口を付ける。
「――うまっ!」
思わず声を上げてしまった。本当に普段自分が呑んでいるものと同じなのか疑いたくなった。お茶の良い所を最大限に引き出された…神過ぎる。素直に凄いと思う。
「お前何者だよッ!すっげーな!」
「いえ、私はただの…」
「―ただの家庭科部の期待のエース様…だよね?」
時臣が横から口を挟んできた。時臣の言葉に彼は慌てたような素振りを見せる。そんな中で俺は驚き過ぎて言葉を無くしてしまった。
家庭科部の期待のエース、イタリアの超エリート校から俺達の平凡な高校に転校して来たという一年生の噂。噂に疎い俺でも聞いたことある。――まさか
「お前が噂の転校生?!」
「噂になっていたかは知りませんが、多分そうです。」
あっさりと認められてしまい何かもう驚くべきか感動するべきか分からなかった。彼は照れ臭そうに視線を逸らしている。その動作が可愛く見えて、思わずニヤける
「えーっと、ランスロットって言ったっけ?」
「はい」
「ランスロット…、ラ…、ラン……。」
「どうかしましたか?先輩」
「うっし!お前今からランスな!」
俺が叫ぶように唐突に告げれば、ランスは意味が分からないと視線で訴えて来た。俺は笑いを噛み殺しつつ、説明を始める
「ランスロットって呼ぶの長いからランスって呼ぶわ!」
「いや…、それは……」
「良いと思うよ、雁夜にしては良い意見だ。私の賛成するよ」
「俺にしてはって言うのが気になるけど、だよなっ!」
時臣の賛同を得て困った顔をするランス。
しばし悩んだ末にランスは諦めたように溜息を落とした。
「じゃあソレで良いです。その代わりに一つ頼みがあるんですが…」
「おー、なんでも言ってみ?」
「また、此処に来ても良いですか?」
予想していなかった頼みに思わずきょとんとしてしまう。俺は考えること無く言い放った
「ぷ、ははッ!」
「…先輩?」
「おう、いつでも来いよ!」
「―――っ」
行ってから気付いた。同じ台詞を前にも言ったことがある…気がする。いつ行ったかまでは思い出せないが言った気がする。俺が思い出そうと一生懸命になっていると、ランスが立ちあがった
「今日は失礼しますね」
「お、またな!」
それだけ言ってランスは脚は屋に帰ってしまった。時臣は普段通り微笑んだまま何も言わなかったが、何か言いたそうにしていた。
結局ランスの要件が分からないまま、一日が終わった
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