コンコンと軽い音が鳴る
俺がハーイと返せば扉が音を立てて開いた
「やあ、雁夜」
「よー、わざわざ悪いな時臣」
普段と変わりない笑みで入ってきたのは幼馴染の遠坂時臣だった。相変わらずの趣味の悪い赤いカーディガンを羽織っている所を見る限り学校帰りなんだろう。と推測できる
「調子はどうだい?」
「まぁ、普通だ」
「ならよかった」
短い会話をして時臣はベット脇の折りたたみ式の椅子を開いて座る。俺はベットから立ち上がって茶でも入れてやろうとするが、時臣によって静止される。時臣は、自分で茶を二つ入れて一つを俺に手渡した
「美味しいか保証はできないけど…」
「おう、いただくわ」
湯呑越しにじんわりと伝わってくる暖かさ。少し熱い茶を一気に口の中へ含む
含んだが――、吐き出した
「っげほ!」
「雁夜!?大丈夫かい――えっと、ナースコールはどこに…」
「っちげーよ!お前…茶に何入れた!?」
お茶からするはずのない塩味、不明の酸味、謎の甘さ。時臣は首を傾げてしまっているので仕方ないので一から説明をする。
「お前、どうやって茶を入れたか説明しろ」
「えーっと…、まずお湯を準備して、急須に茶葉と塩を入れたね。それから湯を急須に入れて、レモンを一絞り。お茶を湯呑に注いで、最後に抹茶アイスを入れれば完成なんだよね?」
成程、塩味と酸味と甘さの原因は分かった。
しかし、まだ理解出来てない謎が残っている。
「時臣、それは誰から教えて貰ったんだ」
「つい先日、綺礼と切嗣の二人に――」
「やっぱりアイツ等かよ!畜生!」
大よその予想はついていたさ、世間知らず過ぎる時臣に無駄な入れ知恵をする奴は同じクラスメイトの綺礼か切嗣くらいだ。
この糞不味い茶…もとい物体を脇の机に置いて吐き出した茶の処理をする。
その間時臣は申し訳なさそうに俯いてしまっていた。そんな時臣の姿を見かねた俺は一息ついてから言った。
「まぁ嬉しかったぜ、茶を入れてくれようとしたのは。だから――さんきゅーな」
「――!それは良かった!」
「今度、今の茶を切嗣と綺礼にも入れてやれ」
「そうするよ」
うん、やっぱり時臣にはヘコんだ顔も怒った顔も…焦った顔も似合わないな。と改めて実感してから時計を見る。十九時、もう外も暗くなっていた
「時間大丈夫か?」
「もうこんな時間か…そろそろ失礼するよ」
椅子から立って折りたたみ式の椅子を畳む。そのまま扉の方へ歩いて行く時臣。なんだかんだで尽くしてくれた時臣にもう一度お礼を言う。
「――ありがとな」
「気にしないで、それじゃあ―またね。」
ガラガラと締まる扉を見送ってから――、嘆息する。
「――また、ねぇ。」
あと何回またがあるんだろうな。
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