「…へ?」 予想もしていなかった申し出に間抜けな声が出て、慌てて口を押さえる。 彼は先程とは少し違う笑みを浮かべたまま言葉を紡ぐ 「君さえよければだけど」 「私は…」 見知らぬ男のお礼を受け取るのは…大丈夫なのだろうか?それ以前にお礼って何なんだろうか、そんな考えで頭が一杯になる しばし考えた末に断ろうと決めた。すみません、気持ちだけで十分で。そう言えばいい、言えばいい――と考えたところで、気付く。 ――家に帰っても、どうせ一人…か。 「…、お願いします」 「じゃあ行こうか」 帰るのに嫌気がさして、口が勝手に動いた。歩き出す彼に置いて行かれないように隣を歩く このくらい…別に…。 彼―、夫がやっている事に比べれば自分のやっている事なんて悪いことではない気になる。いやしかし――… 「あぁ、そういえばさ」 隣を歩く彼が唐突に口を開き思考は中断された 「君の名前は?」 「…私は――」 名乗って良いのかな―? 名前を名乗る。という事は完全にこの人と知り合いになることだ。 言うのを躊躇いつつ隣の彼を見れば、興味深々とでも言うように目を輝かせていた 名前くらい良いかな。 自分の中で大丈夫だと折り合いをつける。 「私はアルトリアです。よろしくお願いします」 「アルトリア…ね。僕の名前は切嗣、よろしくね」 キリツグというのか いかにも日本人らしい名前だな、と思う。変わった名前をしているけど、少し羨ましい 切嗣と並んで歩いていると、つい数分前に着た場所にやってきた。私が入ることを諦めた店。 切嗣は思い出したかのように今の自己紹介に付け加えた 「僕は切嗣、職業はホストなんだ。よろしく!」 ← / → Back |