嫌な奴 | ナノ




(※)会社パロ


「……寒い」
「この季節に寒いと思えるとは…変わった感覚を持っているようだな」


 季節は夏。太陽からの攻撃が痛い季節なのだが、この会社は冷房を入れ過ぎている。長袖のシャツにスーツまで着ていても寒い。この会社は地球温暖化が進んでも良いと思っているようだ、まったく。地球はどうでも良いけど温度設定ぐらいはちゃんとして欲しい

 僕が寒いと言うと、すかさずツッコミを入れて来たのは同僚で隣の席の言峰綺礼。正直関わりたくない、この糞真面目な奴は面倒臭い。僕の至福の時間を毎回邪魔をしてくるし、仕事に真面目すぎて疲れるのだ。

 言峰の言葉は無視しても良いんだが、まぁ放置と言うのは苛めにもつながるので言葉を返した。


「この会社の冷房がおかしいんだよ、僕はおかしくない」
「俺は別に寒いとは思わないが?」
「君の感覚が狂ってんじゃないの」
「お前にだけは言われたくない、早く仕事しろ」
「…へいへーい」


 と言っても僕の仕事は終わっているので暇だったりする。帰っても良いんだけど、この時間に帰るとアイリが心配する、確実に心配する。それに今帰ると、アイリと一緒にアルトリアが居るはずだ。アイツとは関わりたくない疲れる。

 そんなわけで隣の言峰と談笑を試みる。まぁ笑えるかは甚だ疑問だけど


「言峰くーん」
「……」
「言峰綺礼くーん」
「……」
「…そこの麻婆社員」

「呼んだか?」


 流石言峰、麻婆という単語への食い付きが素晴らしい。麻婆社員言峰、会社内の食堂で唯一激辛麻婆を汗一つ流さず食べきって、更におかわりまでした麻婆中毒者。

 つか、コイツ僕の呼びかけ無視したよな、すげー腹立つんだけど。まあ良い、談笑に進もうじゃないか、僕って優しい。別に暇だからじゃない


「何か面白い話とかない?」
「無い」
「なんでも良いから話せよ」
「……」
「こーとーみーねー」


 席を立ちあがってガッシリとした言峰の肩を揺する。筋肉の付きが素晴らしいな、コイツ会社員より絶対に合ってる仕事があると思うんだけど。

 僕が力を振り絞って揺するのにビクともせずに資料に目を通していく言峰。あぁ、暇だ。凄く凄く暇だ。僕は同僚にも相手にされないのか。この暇はどう埋めたらいいんだろう。


「クレーム対処終わったぞ」


 僕が頭を抱えて悩んでいると、入口から僕と言峰の同僚である雁夜が入ってきた。良い遊び相手が来た、凄くいい遊び相手だ。僕は言峰の隣を離れて雁夜の方へ近寄り一言


「かーりーやーくん!」
「うぎゃ!」


 驚かせてやろうと、後ろから思い切り抱きついた。うんうん、やっぱり雁夜は良い反応を示してくれるから面白い。どこぞの言峰とは違って、僕を無視もしないし、面白い反応を示してくれるし。最高としか言いようが無いね

 変な奇声を上げた雁夜が、離れろ!と言ってくるので言われた通りに離れると、僕の方を向いて肩を震わせた


「お前は毎度毎度なんで俺をからかうんだよ!」
「いやー、暇だったんでね」
「俺を暇潰しの道具に使うな!使うなら言峰を使え!」
「言峰つまんないもん」


 あぁ!それは分かる。と雁夜にも同意を得た。やはり言峰の人気は低いな、言峰ざまぁみろ。そんな事を考えながら引き続き雁夜で遊んでいると、後ろから嫌な視線が感じ取れバッと振り向くと…


「何をしているのかな?」
「「あ……、社長。」」


 やけに胡散臭い笑顔を浮かべた社長、遠坂時臣が居た。隣には僕の天敵の言峰も居る。いやな汗がダラダラと流れ始める。そうだったね、一応今は勤務時間なんだよね!暇な訳…ないですよね!

 僕と雁夜がシンクロして嫌な笑顔を浮かべていると、清々しい笑顔を浮かべた社長が笑顔を壊すこと無く


「衛宮くんと間桐くん」
「「…ハイ」」
「そんなに暇なら…仕事の追加をするよ。」
「「ワカリマシタ」」


 非常に残酷な事を告げた。僕達は思わずカタコトになってしまうくらいに怖い、っていうや仕事やりたくない!やっぱり早めに帰っておくべきだった…アルトリア位我慢して帰るべきだったのか僕は!

 僕と雁夜に絶望ムードが漂う中、言峰が不意に口を開いた


「社長」
「なんだね?」
「二人の面倒は私が見ますので社長はお帰り下さい」
「良いのかい?」
「えぇ、大丈夫です」


 何か二人の間で凄く恐ろしい事が言われているような気がする。待ってください社長!僕は言峰に見張られたら仕事できません!言いたいのだが、言峰からの禍々しい殺気が飛んでくるせいで何も言えない。

 社長は少し悩んだそぶりを見せて、では頼んだよ。と帰ってしまった。オフィス内には僕と雁夜と言峰の三人。しばしの沈黙の後に言峰がやけに歪みまくった笑みを浮かべて


「仕事するぞ」
「「…ハイ」」


 有無を言わせぬ口調で言い切られてしまい何も言えない僕達。なんだろう、冷や汗が止まらない、それは冷房が利き過ぎてるからなんだろうか?いや、きっとそうだ、冷房のせいだ




 社長が帰る時に冷房を切っていた気もするけど気のせいだ!

 





***


時臣はきっと冷めた笑顔で酷い事を言う上司だよね!




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