「なぁ、ユキ…。」 「どうしたの?」 「……相談があるんだ」 毎日の日課になっている釣りをしていると、夏樹が珍しく僕に相談を持ちかけて来た。普段は俺が夏樹に相談してばかりだから、なんとなく嬉しくて張り切って話を聞く事にした 「どうしたの?」 「いや、それがさ……」 「うん?」 なんだろう、らしくなく歯切れが悪い。魚が食いついて来てるから集中してる、というわけでもなく…なんて言うんだろう。言い出しにくいという感じがする。夏樹が抱えている問題はそんなに深いものなんだろうか…?それはそれで不安になってきた。 「そんなに深刻な悩みなの?」 「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ…」 「ただ?」 「自分から言うのは少し恥ずかしいと言うか…。」 夏樹の頬が赤く染まった。 …王子がデレた!?いや違う、何を言ってるんだ俺は。それにしても何なんだろう一体。そんなに深刻はわけでは無くて、自分からは言い出しにくいような事?まったく見当がつかない。 「えっと…どうしたの?」 「いや…、その……。」 「別に恥ずかしくないから!ほら!」 「……っ」 普段は鉄面皮と言っても過言ではない夏樹が更に赤くなる。もうこれってレアな気がする、今日の夏樹はどうしたんだろう本当に。 ――と、そこで唐突に背中に嫌な汗が流れた。勢いよく振り返ってみるけど、そこには誰も居なかった。確かに今、誰かの視線を感じたはずなのに…。まぁ良いや。今は夏樹の方が大切だし 「……気がする。」 「え、なんて言った?」 「……見られてる気がすんだよ。」 「…は?」 「だから!誰かに見られてる気がすんだよ!」 ……なんてリアクションをすればいいんだろう。別に恥ずかしいわけじゃないと思うんだけど。夏樹は普通にモテるし、よく告白されてるの見かけるし。割と普通の事なんじゃ…、なんて思っていた矢先に俺の予想の斜め行く言葉が発せられた 「登校中も授業中も着替え中も下校中も四六時中視線を感じるんだよ…。」 「……え?」 「だから、ずっと誰かに見られてる気がしてさぁ……。」 「そ、それって」 ストーカーじゃん…。思わず口から洩れた言葉に、夏樹は待っていたと言わんばかりに食いついて反応を示してきた。 「やっぱりそうだよな!?」 「どう考えてもストーカーだよ!」 夏樹って実は馬鹿だったの?なんて今の大真面目に語ってくれている夏樹に言うと怒られそうなので黙る。それにしても、ストーカーって……。夏樹モテるのは知ってたけど、まさかストーカー被害に合ってるなんて……。 「どうしたらいいかな」 「うーん…、やっぱり警察に行くのが良いんじゃ―」 「警察は駄目だっ!!」 夏樹が声を荒げて主張する。ストーカーって多分犯罪じゃないの?いや、どう考えても犯罪の様な気がするんだけど……だったら警察に行くのが一番いいと思うんだけど…。俺が混乱していると夏樹が忌々しく吐き捨てた 「此処の警察…アテになんねぇんだよ。」 「あ、アテにって?」 「前にも同じような事があったから警察に頼ったんだけど…」 「前にもあったんだ…。んで、その時どうだったの?」 「……って、言われた」 「何て?」 夏樹モテるんだなあと感心していると、一拍置いて夏樹が怒鳴った 「モテるのは良い事じゃないかって言われて追い返されたんだよっ!!!!」 「……はい?」 「豪快に笑い飛ばされて相手にしてくれなかったんだよ!ふざけてるだろ!」 「えっと……。」 御巡りさん仕事してないのか…此処は。それって普通に酷い対応じゃないの?え、何なの。高校生男子はストーカーされるわけないって事で無視って事!? 夏樹が当時の事を思い出して苛々している。まぁ、それが普通だと思います俺も。警察がそんなこと言うんじゃあね…、仕事しようよ本気で。 next |