二日目 | ナノ






「ほんっとーにごめんって!」


 目の前で仰々しく土下座をする僕の友人っぽい物体の八尋。今週は僕と八尋が居残り掃除当番なんだけど、八尋が今日も先に帰らせてほしいと土下座して来た。

 正直一人で帰ると昨日の幽霊に捕まりそうなので心底嫌なんだけど、数少ない友人が土下座をしているので先に帰らせてあげることにした。僕って優しい。


「馬路でごめんな!」
「良いよ別に、じゃあねー」


 明日と明後日は八尋に掃除押し付けて帰るから別に気にしなくていいよ。








「…ふぅ」


 机を動かしたり箒で掃いたり雑巾で拭いたりすることは、大勢で分担すれば楽だけど一人でやるのって地味に重労働だと思う。これって生徒いじめの一環かな?

 雑巾掛けも終わり、後は机を直すだけの所で廊下の方から誰か来る音が聞こえた。スピッパで廊下を歩くと鳴る特有のあの音が響いてきた。こんな時間に僕以外に生徒が居た事に驚いたけど、僕には関係ないので気にせず机を元の定位置に戻し始めた

 置き勉してる奴が多いもんだから机が重い重い。皆家で勉強しないの?しようよ!


「置き勉反対!」
「はぁ?」
「…え、誰ですか?」


え、僕の恥ずかしい独り言聞かれたとか超恥ずかしい!穴があったら入りたいんだけど!と考えつつも、声が掛かってきた方を向くと昨日見た顔があり戦慄し叫ぶ


「え!幽霊!?なんで学校来てるの!?」
「…はぁ?」
「いやいやいや、昨日会ったじゃん!」
「誰の事を言っている」
「だから!昨日会った奴だ…あれ?違う?」

「俺は二年の恙神涯だ」


 明らかに僕を痛い子を見るような目で見られてる。やめて!僕痛い子じゃない!
 
 えーっと、状況を整理してみよう。「放課後の教室で一人で掃除をしていると、クリスマスが嫌いだと言った幽霊と関係があるであろう恙神涯が放課後の教室に一人で来た」…これでOK?大丈夫だよね?


「あぁ、そういうことだ」
「なんで僕の心の声が聞こえてるの?」
「思いっきり口に出てたぞ桜満集」
「あれ、僕の名前知ってるんだ。なんで?」
「…聞きたい事があって来た」


 金色に輝く髪を靡かせながら堂々と教室に入ってくる。…他クラスに入るのは禁止なんだけど、まぁ良いや。僕は机を動かす事を止めずに口を動かす


「聞きたい事って?」
「お前、俺に似た幽霊に会ったんだろ?」
「え?あー、うん。」
「何か話したか?」
「何かって言われてもなあ…」


 クリスマスなんて嫌いだと呟いたら、いつの間にか幽霊が後ろに立っていて、なんか色々と話をして…それから……。


「クリスマスが嫌いって言ってて……、それから大切な目的が合って来たとか言ってたような……。」
「……っ!それは本当か!?」
「えぇ、まあ…。」
「それ以前に、お前は幽霊と話をしたのか!?」
「したよ?」


 どちらかと言えば、いつの間にか口を聞いてしまっていて、そのまま少し話をしたくらいなんだけど……別に言わなくても良い情報みたいだから言わないでおこう。

 机を直すのも残り一つとなった。痺れ始めた腕に、もう少しと自分で応援して机を持ち上げた。と、そこで先程まで黒板の前の教宅に脚を組んで座っていた恙神涯が立ちあがった。


「…使えるな。」
「え、何か言った?」
「いや、なんでもない」


 小さい声で言われた言葉って無性に気になるけど、首を突っ込むのもアレなんでスルーして最後の一つの机を置いた。これで帰れる、さっさと帰ってしまおう。


「おい、桜満集」
「なにー?」
「俺と一緒に帰ってくれ」
「…はあ?」


 え、コイツ何言ってるの?と続けて言いたかったけど声を押し殺した。でも、なんとなく直感的に悟る。これま間違いなく厄介事に巻き込まれる予感がする……。そんな予感が凄くするんだけど!


「良いな?」
「嫌です」
「拒否は認めない」
「いや厄介事は…」
「生徒会命令だ、帰るぞ」

「えぇえええええ!?」


 生徒会命令って何ですか!ていうかこれは、アレですね、職権乱用って奴ですね。僕なんでこんな巻き込まれるの本当に嫌なんだけど。僕は必至で頭をまわしていると、恙神涯が口を開いた。


「…雪」
「雪?降ってるの?」
「いや、なんでもない」
「まぁ良いや。二人で帰れば幽霊に会う事は無いだろうし」

 
 これはこれで当初の目的が果たせるので良いかなと思い、教科書類が一切入って無い鞄を(置き勉だ、だって持つの疲れるし?)手に扉に向かう。

 と、なぜか教宅の前から動かない恙神涯。自分で誘っておいて何なんだよ、まったく……仕方ないから僕が話しかけて――


「幽霊に会えないなら意味が無い」
「…は?」
「俺の目的はあの幽霊に会うことだ。つまり、会えないならお前と帰る意味が無い」
「……。」
「しかし……、雪は俺の前には……。」
「…!雪って人の名前?」


 僕が閃きで口を開くと、恙神涯は鉄面皮を崩して驚いたような顔をした。そして、その直後に後悔の念に駆られるかのような歪んだ表情を見せた。

 不味い事言ったかな…と思いつつ、もう少しだけ話を聞いてみる事にした


「その雪さんと幽霊が何か関係でもあるの…?」
「…っ!」
「意外に表情でるね」
「ふぅ…、先に聞いてやる。」
「何を?」
「俺が今からする話を聞く場合、お前は俺の言う事を絶対に聞け。聞けないなら俺の話を聞くな。」


 思いつめた顔のまま言う。僕は、聞かないのが正解だと分かっているのにコクリと首を縦に振った


「恙神雪、俺の弟だ」
「……!?」
「双子の血の分けた弟だ」
「嘘…。」
「本当だ、雪は去年のクリスマスに事故で死んだ」
「……っ。」
「俺のせいで…、雪は死んだんだ。」


 なんで君のせいなの。聞きたいけど言葉が出ない。そんな、まさか双子で弟だなんて…。恙神涯は感情を押し殺すように言った。


「俺は雪に会わなければならない、協力しろ。」
「…勿論。」




 厄介事は嫌だったのに、そんな話を聞いたら断るわけにはいかないじゃん。そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら恙神涯と教室を出た